内容説明
〈西のはて〉を舞台にしたファンタジーシリーズ第三作!少年奴隷ガヴィアには、たぐいまれな記憶力と、不思議な幻を見る力が備わっていた――。ル=グウィンがたどり着いた物語の極致。ネビュラ賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
32
『ギフト』では北の果ての荒地、『ヴォイス』で“西のはて”の都市国家アンサルが舞台になった西のはて年代記シリーズ、最終作は両者のちょうど真ん中にある都市国家群の一つ、エトラが舞台になる。『ギフト』では為政者の血筋、『ヴォイス』では征服者に支配され、兵士との間に生まれた子供が主人公だったが、本作は生まれながらに奴隷の身分であるガヴィアが主人公だ。家族や友人たちが支えてくれた第一作、家族はいなくても導き手である道の長に守られていた第二作に比べ、彼には庇護者がいない。2021/08/30
世話役
16
2分冊の上巻なので最終的な感想は下巻にて。その代わりに今まで語り忘れた、というよりは見落としていた要素を挙げておく。この『西の果ての年代記』において一貫して鍵となっているものは「本」「言葉」「信仰」の3つである。強者の側はこの3つの要素に何かしかの恐怖心を抱き、人生を絡めとられている。対する主人公の側はこれら強者の論理、別の言い方をすれば因習を打破し、以って自己の強さを獲得していくのだ。2015/01/17
roughfractus02
8
ファンタジーを現実に対する選択肢と捉える作者は、主人公に「文字」を覚えさせ、書物を読ませて記憶する能力を与え、さらに悲惨な出来事を体験させて自らの現実を自覚させ、そこから物語世界を動かしていく。姉と不自由のない生活の中で幸福を感じている主人公の黒人少年は、姉が殺されるところから恵まれていると思っていた自分が奴隷であり、奴隷制社会の現実の中にいることを自覚する。同時に、主人が与えてくれた教育が彼に「思い出す」能力を目覚めさせる。物語のテーマが幸福から自由へ展開する中で、主人公は未来の記憶を思い出し始める。2024/01/13
オイコラ
3
ガヴィアの幸せと館の主人たちの優しさや正義、その裏側の欺瞞。この表と裏が繰り返され、ガヴィアは裏側を目にするたび傷つきながら旅をする。第一部でのこの「幸福」と潜む「欺瞞」の書き方がうまいなあ、と思う。ついガヴィアと一緒に幸せだと思いこんでしまう。2012/08/21
skitayama
3
西のはての年代記三部作を通して、本当に素晴らしい作品だった。ル=グウィンは日本ではゲド戦記で有名だと思うけど、後の世ではファンタジー作品ではこちらが代表作と言われているかもしれないな、と思う。2012/08/11