内容説明
【和辻哲郎文化賞受賞作】「エセー」刊行後、ミシェルは持病に苦しみながらも国外に旅立ち、見聞を広めていく。精神は未知のもの、新奇なものに触れさらに昂揚した。再びモンテーニュの城館へ帰着するや、推薦されてボルドー市長となる。国情不安定、ペストの流行といった困難を極める中、人間的英知はいっそうの高まりをみた。偉大な思想家の魂を跡づける長編、ここに完結。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
46
『エセー』の冒頭で、モンテーニュは「哲学とはどうやって死んでいくかを知ることである」と書いた。ラテン語で育てられストア派の思想に傾倒していたモンテーニュは、だが、長引く宗教戦争によるあまりにも多くの死、ペストの流行、落馬による臨死体験を経て、生の目的は「死」ではなく「生」であると考えるようになる。そのモンテーニュの思考の変化を、「エセー」には記されていない歴史的背景から詳細に読み解いていく。モンテーニュの伝記としてだけでなく、フランス史、フランス宗教史としても価値ある力作。2016/04/27
湿原
12
イタリア旅行後直ぐのボルドー市長の就任、ペスト災害による長期間の避難、バスティーユ牢獄監禁など、ミシェルの後半生は過酷極まるものであった。『エセー』執筆はこの合間に行われていたようである。ミシェルの思想は、ストア派的思考から、懐疑主義への移行。そして最終的に人間の考察、自己閉鎖から自己拡充への方向転換という流れになる。『エセー』はそのすべての思想経歴が綴られているため、大変読みにくいのだけれど、この第三巻によって流れがきちんと把握できた。しかし私はまずこのシリーズを読む前に『エセー』を通して読んだ方が良い2023/11/30
風に吹かれて
11
1580年6月、モンテーニュは17か月に渡る旅に出た。その間にボルドオ市長に推薦される。帰郷後、シャルル九世の侍従武官でもある彼は、国内争乱の中、各派の仲介役的な激務もこなす。生まれた時代、貴族として与えられた役割、そういった中で日々を生きながら自分自身を深く見つめ『エセ―』を書き継ぐことで人間の精神性の深みに達する。どこかで争いが絶えない人間世界で生きている我である故、岩波文庫6冊を読むことの意義深さを感じている。しばらく前から書棚に飾っている『エセ―』。来年の読書のひとつとして、読了したいと思う。2018/11/26
呼戯人
11
1580年6月22日、ミシェル・ド・モンテーニュは城館を出て、ドイツ、スイス、オーストリア、そしてイタリアへの十七ヶ月の旅に出た。旅は、有益な訓練であるとミシェルは言う。精神は未知のもの、新奇なものを見て、絶えず修行をする。また肉体も暇を持て余しもしなければ、疲れ過ぎもしない。そうした長旅の間にミシェルの精神は益々深みを増してゆくのであった。ボルドウ市の市長職に戻ったミシェルであったが、読書とエセーの執筆は滞ることなく進められてゆく。「人間は誰でも自分の中に、人の人たる条件の完全な形を備えているのだ」。2017/02/20
Fumoh
7
第三部はモンテーニュの旅をまず描き、それからユグノー戦争の結末へと移行していきます。それから最後に『エセー』の概括を示し、終了としています。概括とはいっても、『エセー』自体を一言で言い表すのが難しい作品でありますから、堀田善衛氏なりの捉え方になります。わたし個人としても『エセー』は好き嫌い別れそうな本だなと思っていて、絶対に読んだほうがいい本とはいえず、そんなふうに肩ひじ張らずに「まあ読んでみるか(役に立たなかったらすぐやめよう)」ぐらいのスタンスで読んで、あんまりモンテーニュの言葉を額面通りに受け取って2025/02/20