感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
49
ルーゴン・マッカール叢書8巻『愛の一ページ』は、『居酒屋』の反響が大きすぎて、『ナナ』を発表する前にゾラが慌てて差し込んだ、お口直しのような愛の一挿話。もともとはこの叢書とは関係のなかったこの作品を、急きょ登場人物名やシチュエーションを変えて組み込んだそうなのだが、母エレーヌの愛を独占しようとどんどんわがままになっていく娘ジャンヌの神経質で病的な様や、エレーヌの熱愛に、一族の片鱗が見事なまでに表されている。パリの季節の移ろいの中で燃える、静かで、激しく、哀しい愛。2016/09/30
兎乃
29
舞台は第二帝政ど真ん中1854〜1857パリ。経済的余裕のある若き寡婦エレーヌ。恋に目覚めたり貞淑の念にかられたりと よろめく淑女で、ルーゴン家マッカール家の源であるアデライードの孫にしてはチョット凡庸な女性という感が否めない。が、その遺伝子の方舟は エレーヌの娘ジャンヌに濃縮され、受け継いだ神経症と病弱な体、被拒絶感 被受容感 自尊感情 等々バランス崩し みごとパリの雨に散る様は まさに狂信のムーレ家ここにあり。ゾラの性格描写も良いですが、パリのあらゆる表情、その情景描写が実にお見事。2014/03/12
ラウリスタ~
14
正直なところ筋の展開があんまりにも冗長で、それでいて『居酒屋』批判をかわすために安易に「不倫したヒロインが娘の死という罰を受ける」喉触りのいい物語にしたものだから、読み切るのがしんどい。そのあまりに平板なテーマに無理やりに組み合わさるのが、季節と時間により変化する「印象派的な」パリの風景(アパルトマンの窓などの高みから見た)。無理やりにもほどがあるので批判の的になったらしく、のちに「別に描写の腕を見せ付けるとかいう狭い了見で書いたのではなく」と釈明している。どっちかというと駄作。2016/08/13
きりぱい
8
叢書第8巻。愛していますと熱く告げらても、ままならない間ではどんな顔をすればいいのか?貞淑な未亡人エレーヌは、一人娘の危急を救ってくれた医師への恋に胸を詰まらせる。あくどさがない穏やかな面白さにすっかり入り込んでしまい、叢書であることを忘れる雰囲気だったが、ムーレ家の長女という間違いなくルーゴン=マッカールの枝葉であり、母の想いを見透かすように手に負えなくなってゆく神経過敏な娘に、いつしか様相も愛憎深まるものに変わってゆく。理性が揺らいだ・・か。不思議と安らかな読後感。フェチュ婆さんはうっとうしいが。2011/02/19
ろべると
7
「居酒屋」と「ナナ」という壮絶な物語の間に書かれた本作は、パリを舞台にした美しき未亡人の恋愛に関する優雅な話かと思いきや、神経症の血を受け継いだ娘が絡んできて、やはり壮絶な展開となってしまう。個人的には面倒な娘など放っておいて、道ならぬ愛に突き進んで欲しかったのだけど。主人公の愛と哀しみを見守るパリ。舞台となるパッシー地区には行ったことがないけれど、高台から望むセーヌ川から遠景までのパリ市街の夕暮れや夜景、また嵐などの描写がとても印象的で、いつか自分も本書を手に、その眺望と心象風景を体験したいと思わせる。2022/11/11