出版社内容情報
「勇気ある作家」ブッツァーティの代表作。「人生」という名の主人公が30年にわたる辺境でのドローゴの生活にいなにひとつ事件らしいものを起こさない……。20世紀幻想文学の古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とも
109
淡々と、残酷で単調な人生、人生の終わりへの戦いが綺麗な文章で表現されていて、とても切なくなった。 歴史や地理、時代背景や文化を考えながら何を暗喩しているのか読むのも楽しかった。 人生、死について考えさせられた。 10年後また読んでみたい。2021/09/25
三柴ゆよし
32
どことも知れない砦に配属された青年将校が、来るあてもないタタール人の襲来をひたすら待ち続ける話、と言えば、物語のあらましが説明できてしまうというのは、一体どういうことだろう。そうしてまたこの不憫さたるや、全体どうしたことだろう。ジョヴァンニ・ドローゴとともに、最後までタタール人の砂漠を見据え続けた読者はみな、口を揃えてこのように叫ぶことだろう。「まるで他人事ではない!」読み終えたいまとなっては、なんかもうこの表紙を見るだけで不安になる。ブッツァーティ先生には、小一時間かけて責任の所在を問いたい。2013/04/04
Hepatica nobilis
22
辺境のバスティアーニ砦に赴任した若き士官ドローゴ。短期間の滞在と思っていたのが、いつのまにか月日が経ち人生の大半を費やすことになる。いつか来るタタール人の襲来を夢に見るうちにドローゴは年老い、襲来が現実になった時に物語の幕が引かれる。思わせぶりな寓意のように教訓を強要されるまでもないが、幻想風でもあるこの作品世界を経験すると、そのまま切実に身をつまされる思いがした。久々に感動させられた文句なく良い小説だった。2017/06/29
きりぱい
20
将校となり期待に燃えたドローゴが配置されたのは僻地の忘れられた砦だった。幻滅し、配置換えを待つ心境を変えていったのは、砦の兵士たちが共通してとりつかれているひとつの期待。自分にも訪れるかもしれない栄光の時を待ち続け、まだ若いと言われるうちに気付けば何もなく過ぎ去った年月。なのに読ませるなあ。最後近くのループ場面にははっとした。逃げ出したい時には逃げられず、逃げられる今となって逃げ出したくないジレンマの虚しさ。なんて意地の悪い人生なんだ!このやるせなさは、もう・・。2012/09/04
パオー
19
残酷な小説だった。イタリアのカフカとか言われるらしいけど、少なくともこの作品はそれほど不条理でも幻想的でもなく、だからこそ生身の人生に切実に迫ってくる。確かに、意味があるのか分からないしあらゆるシステムが形骸化した「砦」に主人公が送られるけど、彼の場合はそこから抜け出すチャンスはいくらでもある。だけどそこで過ごすうちに「習慣のもたらす麻痺」と「未知なる希望」によって、砦での生活から抜け出すことを選べなくなる。この本が、カフカが読むべきだと言った「私たちの内なる氷結した海を砕く斧」であるには違いないと思う。2012/11/06