内容説明
誕生以前から、音楽とともに人は存在した―否応なく魅了する反面、人を呪縛し心を引き裂く、音楽なるものと、いかにして人は生きてきたのか。オルガン奏者の家系に生まれた作家/音楽家ならでは視点から、ギリシャ神話、ホロコースト、文学的題材を逍遥し、人類の初源から音楽を問う、孤高の思索/詩作。
目次
第1考 聖ペテロの涙
第2考 耳にはまぶたがない
第3考 わたしの死について
第4考 音と闇の関係について
第5考 サイレーンの歌
第6考 ルイ十一世と音楽を奏でる豚たち
第7考 音楽の憎しみ
第8考 レス、エオチャイド、エックハルト
第9考 憑きを落とす
第10考 関係の終わり
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
114
目には瞼があるから、見たくない時には閉じれるけれど、耳には瞼がない…。本来は癒すものである音楽が憎しみと結びつくとき、耳から入ってくる音は耐え難い。ペテロの耳に入った鳥の鳴き声。アウシュビッツで奏でられた音楽。記憶の澱となって沈んでいたのに、それを思い出させることへと結びつく音。しかし、清少納言が耳をすませた音も、それもまた耳に響く音なのだ。「聞くこと…それは離れているのに触れられること」「強迫音」 オイディプス王が聴きたくてたまらなくなった声。理解はするが、そこに共鳴するのはむずかしい。2019/08/12
いやしの本棚
19
詳しくはないけれど、自分にとって不安を紛らすために音楽は必要だから、「憎しみ」とはどういうことか、興味深く読んだ。アウシュビッツの音楽をめぐる第七考はぐっと深く腹に何かを押し込まれるように辛かった。「震えながら次のことを聞かねばならない。裸の身体が次々と死の部屋へ入っていったとき、そこには音楽が鳴っていたのだ。」人を「服従」させる音楽。確かにわたしはコンサートやライヴへ行くことを、人が群れをなして大音響の音楽を聴いているのを、少し怖いと思ってしまう。「音楽を聴く者は、自ら罠にかかりにく獲物だ。」2019/08/03
イシザル
9
人類が、6千年の間、つらいこと悲しいこと楽しいこと、音符にして残しきたらかこそ。伝えてきたからこそ。言語を超えて、ミュージシャンとオーディエンスが、一体になる時があるんだ。2020/04/05
qoop
8
音楽に関する不穏な挿話を重ね、隷属させ、支配し、殺戮/狩猟のために奏される音楽という原初の響きが今も鳴り続けていることを暴く。糊塗された文化的文脈を剥ぎ取り、歴史の裏に流れる通奏低音に耳をすます、その視点の冴と力強さは圧巻。挿話の連なりは、理詰めでもなく、かといって情緒に流れるわけでもない、まさしく著者の在りよう/書きようがそのまま現れているのだろう。ここはもっと読み込みたい。それにしても、音楽を聴くことがそれがもたらす脈動への服従ならば、好んで聴くことと強制されて聴くことにどれほどの差があるのだろうか。2019/07/27
rinakko
1
再読。2019/09/04