出版社内容情報
質量ともに世界に比類ないハンセン病文学の初の全集。第三巻には冬敏之、島比呂志の作品、計16編を収録。加賀乙彦による書き下ろし解説付き。
冬 敏之「たね」「渦」「高原の療養所にて」「埋もれる日々」「その年の夏」「長靴の泥」「街の中で」「ハンセン病療養所」
島比呂志「林檎」「奇妙な国」「永田俊作」「カロの位置」「豊満中尉」「生存宣言」「玉手箱」「海の沙」
加賀乙彦「解説」
第三巻は冬敏之と島比呂志という二人の小説家で構成される。それぞれ作風の違うこの二人は、近年いくつかの単行本を出して活躍してきた人たちであるという意味で、ハンセン病文学をしめくくるに相応しい存在だと思われる。(中略)
……差別するほうの人の気持ちまで推しはかっていくという視点は、冬敏之にして初めて出てきたものだ。そこには社会に広がった人間関係からの体験と、人間を見る著者の暖かい心とが作用していると私は思う。(中略)
島比呂志は、さまざまな手法によって小説をつむぎ出す人である。……小説についてよく知り、修練を積んだ人だと感心する。閉ざされた状況に投げ込まれた人が、北條民雄風の閉じ込められた環境、囚われの状況と、この島比呂志の主題とする戦後の、開かれた環境のゆえにかえって世の差別や誤解が起こってくる状況とは、ずいぶん距離がある。そして戦後の状況を描くには、まっすぐなリアリズムを目指した冬敏之の文学とともに、モダニズム風の島比呂志の文学も、また存在理由があったのだと私は考えている。(解説より抜粋)