内容説明
野生イルカの保護を主張する人や、スピリチュアルな存在として心の癒しを求める人がいる一方で、イルカ漁を生業としてその肉を食べる人もいる。はたしてこれは野蛮な行いなのか、それとも尊重すべき文化なのか。とかく価値観の押し付けになりがちなこの話題に自然体で向き合い、世界各地をめぐってさまざまな人たちと語らう中で見えてきた人間とイルカの関係とは。
目次
桃色海豚の午後―タイ・チャンタブリー
新兵衛どんのツチクジラ―千葉県・和田浦
オポの夏―ニュージーランド・オポノニ
モンキーマイアのイルカたち―オーストラリア・モンキーマイア
ケイトの青春―長崎県・壱岐島
フリッパー問題、とんがる―アメリカ・フロリダ
くるくるイルカ、飛び跳ねる―アメリカ・ハワイ
がんばれ、御蔵島―東京都・伊豆諸島
笑うマダライルカ―バハマ沖
カナリアは歌わない―カナダ・ケベック
イルカを食べる―岩手県・大槌
富戸オキゴンドウ事件―静岡県・伊東
著者等紹介
川端裕人［カワバタヒロト］
１９６４年兵庫県生まれ、千葉県育ち。東京大学教養学部（科学史専攻）卒、日本テレビ入社。科学技術庁、気象庁などの担当記者として、宇宙開発、海洋科学、自然災害などの報道に関わる。９７年に退社し、独立。小説やノンフィクションの執筆を中心に活躍する（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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こぺたろう
9
著者はイルカと触れ合うのも、食べるのも好き。イルカ漁は否定しないけど、いい加減な資源管理は非難されるべき。ふむふむ。割とバランスが取れているように思います。人間は矛盾した生物で、罪深い。でもそれが人間らしさかな。解説に出てくる食べるか食べないかは「感情移入」しているかどうかという視点に、なるほどと思いました。2021/10/16
yamakujira
5
イルカを獲る漁師、イルカを食べる国民、イルカを飼う水族館、それを批判する動物愛護団体、漁を妨害する活動家、イルカを観光資源とする地域や業者、それぞれの立場や主張を、タイ、ニュージーランド、フロリダ、ハワイ、千葉、壱岐、御蔵島、大槌など１２か所の取材を重ねて、鯨類好きの著者があえて中立的な筆致で伝える。つい感情的になりがちだけれど、頂点捕食者の重要性、イルカへの水銀蓄積、漁師や漁協の前時代的意識、現代の食糧事情などを考えると、伝統文化なんて廃れるものだし、イルカを食べなくてもいいと思うね。 （★★★☆☆）2021/10/10
t_hirosaki(t_hirosaki)
5
柔らかな文章と裏腹に著者の視点は冷徹だ。生き物を食べることや太地の入り江で鯨が死ぬことに感受性は痛まないと言い切り、生態系が保たれる限りに於いて人間の生活を優先させるべきという立場を明言する。かといって（悪辣な、と言っても良いはずの）環境保護団体側への非難を行うわけではなく、その活動に一定の理解さえ示している。そして結論は示さない。視点が定まらない人だ、と思わないわけではない。中庸と矛盾の境目が僕にはよく分からない。だけど多分結論を出すのは著者の役目ではないのだと思う。撒かれたのは種で、育てるのは僕だ。2010/08/24
三色かじ香
4
イルカを愛しつつ、無思考に｢反捕イルカ｣を主張する訳ではない筆者の立場から、様々なイルカと人間の関わり方を知ることが出来ました。イルカと泳いでみたいな、海の中からイルカの群れを観察してみたいな。2019/04/30
さつき
3
面白かったです。感情論に感情論で対抗しようとしても水掛け論になるだけだし、世の中をこじれさせるのは自分と違う考えに対する不寛容なのだろうとも思う。意識の違い立場の違いを切り捨てず、誠実に、思考を止めない。川端氏の姿勢に感じるそういう部分が、好きだなぁと思います。あと単純に、反捕鯨と聞くだけで眉をしかめるようなところは私にもあったわけですが、海洋資源としての維持の難しさや水銀汚染については全く意識がなかったので眼から鱗でした。物事を捉える視点は多く持てるに越したことはないですね。2012/01/16
