内容説明
廃墟からの「復興」が唱えられるとき、聞こえなくなる声がある。生き残った人々は、自らの暮らしを取り戻すため、立退きをともなう都市計画に抗い、行政に対し多数の陳情書をしたため、声をあげようとした。本書はこの陳情書に初めて光を当てた画期的研究である。戦後広島を、無数の声とさまざまな力線が交差する空間とした描き出す渾身作。
目次
第1章 廃墟と描線―都市復興のなかの境界画定
第2章 死者の都市―移動する墓碑の軌跡
第3章 顕在化する復興の境界線
第4章 禁じられた復興を生きる―広島平和記念公園
第5章 「不法占拠」という復興経験―一九七〇年・相生通り調査から
終章 廃墟のなかの「声」を読みとく
著者等紹介
西井麻里奈[ニシイマリナ]
1988年愛知県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了(博士・文学)。現在、日本学術振興会特別研究員PD(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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takao
1
ふむ2023/07/05
roron
1
平和都市の名の下に道路や記念公園を整備する戦後広島の都市計画は、焼野原に境界を引き、バラックを排除する形で進んだ。この本では換地の融通や立退き延期などを求める様々な住民の「声」を陳情書類から読み解く。が、そこで浮かぶのは<行政vs住民>の安直な構図ではなく、むしろ住民同士の間に生々しく文化的・心情的な境界が引かれていく様だった。復興を経験する「声」の主たちは不条理に抗う一方で、欲望のために行政を利用しようとし、時に他者を排除もしたようだ。2021/05/16