内容説明
舞台は昭和初期、横浜のミッションスクール。新入生の三千子に、ふたりの上級生から手紙が届く。品よく儚げな洋子と、負けず嫌いで勝気な克子。ふたりの間で揺れ動く三千子だが―昭和12年、伝説の雑誌「少女の友」に連載された本作は一大ブームを巻き起こした。少女時代特有の愛と夢、憧れとときめきに満ち満ちた、永遠の名作。雑誌初出時の中原淳一の挿絵を全点収録。
著者等紹介
川端康成[カワバタヤスナリ]
1899(明治32)年大阪府生まれ。東京大学国文科卒業。1924年横光利一らと「文芸時代」を創刊。「伊豆の踊子」「雪国」等の話題作を多数発表。61年文化勲章、68年ノーベル文学賞受賞。少年少女向けの作品にも関心を寄せ、雑誌「少女の友」では読者投稿欄(作文)の選者も担当した。72年没
中原淳一[ナカハラジュンイチ]
1913(大正2)年香川県生まれ。32年雑誌「少女の友」の挿絵でデビュー。看板画家として絶大な人気を得るが、軍部の圧力により40年降板。戦後は自ら「それいゆ」「ひまわり」「ジュニアそれいゆ」「女の部屋」を創刊、デザイナー、スタイリストなどとして多彩な才能を発揮、そのすべての分野において先駆的な存在となる。83年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mocha
92
『彼方の友へ』のモデルとなった『少女の友』の連載小説。中原淳一の挿絵も多数掲載されている。横浜のミッションスクウルを舞台に織りなされる〈エス〉の世界。セレブ女学生の上品な会話やおしゃれなファッションに当時の少女たちは胸ときめかせたんだろうな。川端康成&中原淳一の造り上げた少女たちは、何十年たっても色褪せず美しい。2018/06/03
優希
84
川端康成の少女小説。少女同士の愛、憧れ、ときめきが美しかったです。横浜のミッションスクールのエスの関係が書かれていました。新入生の三千子、おしとやかで儚げな洋子、勝ち気な克子の愛情と葛藤が四季の移ろいとともに語られていきます。三千子は洋子とエスの関係になりながらも克子に惹かれるのが揺れる乙女心というものでしょう。女の子同士のフワフワした甘さみたいなものを感じました。少女たちの移ろう心が愛らしかったです。ほのかに百合が香る雰囲気が砂糖菓子のようでした。少女小説に中原淳一の挿絵は乙女の夢だったでしょう。2015/09/28
あんこ
39
少女特有の甘美な世界が清らかに描かれていました。恋とはまたちがった、なんとも言えない空気感がとてもよく表現されていて、少女たちが住む港や待ち合わせ場所の少し朽ちた赤屋敷の茂み、夏を過ごす西洋じみた避暑地に思いを馳せながら読みました。中原淳一の挿絵も美しく、読み終わるのが惜しいくらいでした。このような少女文学を川端康成が描いたのかと驚きましたが、原案が中里恒子だということで納得。きっとこの甘美さは、一度外に出てしまったら次第に薄れていくものかもしれないと思いつつ、彼女たちの心の交わりが永遠に続けばいいと願い2014/03/30
小夜風
36
【所蔵】川端康成が描く少女小説ってどんなだろうと恐る恐る手に取りました。百合小説というものを初めて読みましたが、同性愛とも親友とも違う、上級生と下級生が「姉妹」の契りを結ぶ「エス」という関係とのこと。少女たちの美しさや儚さ、脆さ、強さ…既に「雪国」を書いていた川端康成がこんな清らかな物語を書けたことが凄いと思いました。男女交際が禁じられ、疑似恋愛でときめくしかないような中で、この娘たちは恋も知らないままに親の言いなりにお嫁に行ったのかなと、切なくなりました。とても可愛らしく、美しい青春小説だと思いました。2019/06/04
そうたそ
31
★★★☆☆ 川端康成と少女小説。結びつくようでそうでもないようなイメージだが、読んでみればやっぱり川端康成だ、と思えるような繊細かつ端麗な文章であった。男女間の恋愛どころか日常的な触れ合いまで禁じられていた時代、女学校では先輩の女子学生とその後輩とが「エス」という関係を結ぶということが多々あったという。先輩後輩関係の延長線上にある恋愛というような関係で、卒業すれば関係は解消されるし、性的な関係に発展することもない。故に百合小説というほどのものではなく青春小説に近いものを感じた。面白さとしてはそこそこ。2015/07/13