目次
新興の町・新宿から生れた『放浪記』
女給という都市生活者
原稿を売り歩く文学少女
宇野浩二から徳田秋声へ
雑踏という「自分だけの部屋」
東京の空の下で―自活する女性たち
映画化された三つの小説
窪地の小さな町
物食う女
東京に出たけれど―都市と農村の対立〔ほか〕
著者等紹介
川本三郎[カワモトサブロウ]
1944年東京生まれ。東京大学法学部卒業。評論家。1991年、『大正幻影』(新潮社)でサントリー学芸賞受賞。1996年、『荷風と東京』(都市出版)で読売文学賞を受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
16
林芙美子は戦時中、いわゆる「従軍ペン部隊」の一員として中国や南方各地に赴いたことから、戦争協力者として否定的に語られることが多い。本書の後半は「あまりに安易に貼られた」そのレッテルをはがし、戦時下の彼女の心情を見つめ直すことに、かなりの紙数が費やされている。2004/04/05
hitsuji023
6
戦前、戦後の昭和の時代背景を通して、林芙美子という作家について解説していく一冊。大河ドラマや朝ドラを見終わった後のような読後感だった。「放浪記」での成功とその後のパリ生活に林芙美子のエネルギーと青春を感じた。林芙美子は一貫して庶民目線から小説を書いていることに好感が持てる。2024/04/09
nonicchi
6
桐野夏生さんの「ナニカアル」から本書に辿り着いた。芙美子のあくまで庶民に寄り添おうとする姿勢もさることながら、大正末期から昭和初期の風俗も詳しく描かれていて(特に新宿駅南口のエリアが戦前はスラム街だった等)興味深く読めた。若さがほとばしる「放浪記」の時期を経て、戦争が進んでいくにつれて、作品が虚無的になっていく過程が記録されていて、なるほど、平林たい子さんが彼女を「乾坤一擲の虚無を抱えた」と言っていたのはこれか、と思った。充実した読み物でした。2016/06/29
Gen Kato
3
林芙美子に対する、作品論も含む客観的な評論というのはこれまで案外少なかった。(主観的な評伝はあったが、書き手の感情が出過ぎている。それはそれで面白いのだけれど)旅を愛し、同時に旅のもとでの生活を愛した(観光ではなく)芙美子の生きざまが、街や風景を読み、観、語ることのこのうえない達人である川本氏によって書かれたのは、読み手(私です)にとって幸福であったと思う。2014/08/18
あいくん
3
☆☆☆北九州市市制五十年を記念して、北九州市立文学館が「林芙美子生誕110年」展を開いています。そのなかで川本三郎さんの講演会が開かれましたので、聴きにいきました。公演のテーマは「モダン都市のなかの林芙美子」ということでした。川本さんはもうすぐ70歳ですが、意外に若いイメージでした。講演の内容とこの本の内容かなり重なっていました。林芙美子の文章は今読んでも若々しいです。方言が良いです。通俗的というのはある意味当たっています。むしろ通俗的なことを評価すべきです。放浪記は明るく書かれています。2013/06/09