内容説明
「馬の胎から産まれた少年」アディは、新教と旧教が争う三十年戦争の戦地を渡り歩きながら育った。略奪に行った村で国王にも金を貸すほど裕福な宮廷ユダヤ人の息子イシュアと出会う。果てない戦乱のなか傭兵となったアディは愛してはいけない女性に思いを寄せ、イシュアは権謀を巡らし権力を握ろうとする。二人の友情を軸に十七世紀前半の欧州を描く傑作歴史小説。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年生まれ。東京女子大学中退。’73年、小説現代新人賞受賞。’86年『恋紅』で直木賞受賞。’98年『死の泉』で吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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あつくなれ!!本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
49
三十年戦争という史実のなか、少年アディの青春と成長を描く。爽やかなものではなく、血と泥にまみれた悲惨な戦場の様子が繰り返され、読み進めるとその凄みにつらくなるほどだった。当時の光景をまるで目撃したかのように活写されており、そして900ページ近い大作を精緻にまとめる筆力に脱帽。2015/08/10
絹恵
45
"愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。即ち、愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む(Ov.Bismarck)"それならば歴史を創るのは紛れもなく愚者なのだと思います。ホムンクルスの彼は理解したい永遠の他者に出逢えたその時から、約束を選ぶのか、結束を選ぶのかは彼の意志に委ねて、その選択を馬鹿だなと言って目を細めていました。今を見続けた彼らのその瞳はいつだって熱を帯びていたから、血肉の歴史に万感胸に迫るものがありました。2014/10/21
kasim
42
稀代のストーリーテラーである著者の技に酔う。面白いだけでなく複雑怪奇な三十年戦争の流れも分かり、戦争や経済も変化していく近世史を知りたい下心も満足させられる。傭兵の人生とユダヤ人のヨーロッパでの生き残りと発展、という二大テーマをつなげる二人の主人公の絆は抑制の利いた筆で描かれ、友情、と一言でまとめるのは簡単だけどこの機微はそれでは伝わらない。野心家で理想化されることはないが宗教的寛容は持っていたヴァレンシュタイン像など、物語を邪魔しない史実の配分も絶妙。2021/06/20
秋良
18
いつかプラハに行くことがあったらこの本を持っていきたいと思っていた。今回それが叶って、プラハ城のダリボルカではここにイシュアが……と感慨にふけり、聖ミクラーシュ教会ではここでフロリアンが結婚を……とまたまた感慨にふけった。今はもちろん戦争の荒廃の影なんてないけれど、博物館では「ヨーロッパで最悪の戦争」と三十年戦争を解説していて本当にここがあの地なんだ、と。プラハには魔術がよく似合う。2024/11/11
橘
18
とても分厚いのですが、とても読みごたえがあって面白かったです。中心となる、傭兵のアディとユダヤ人のイシュアの思いが切ないです。というか、イシュアがわりと一方通行だったのですが、何故アディにそこまで…と思うと、はっきりとは描かれなかった二人の旅が尊かったのだなきっと。「聖餐城」と「青銅の首」と、ホムンクルスのイシュアで幻想的になりそうですが、描写は現実的でした。イシュアの兄の、シムションとバアルの会話で出てきた、「世界の富はユダヤ人のもの」という考え方すごいと思いました。経典かな?静かな最後が印象的でした。2019/05/26