内容説明
山には「塩の道」もあれば「カッタイ道」もあり、サンカ、木地屋、マタギ、杣人、焼畑農業者、鉱山師、炭焼き、修験者、落人の末裔…さまざまな漂泊民が生活していた。ていねいなフィールドワークと真摯な研究で、失われゆくもうひとつの(非)常民の姿を記録する。宮本民俗学の代表作の初めての文庫化。
目次
塩の道
山民往来の道
狩人
山の信仰
サンカの終焉
杣から大工へ
木地屋の発生
木地屋の生活
杓子・鍬柄
九州山中の落人村
天竜山中の落人村
中国山中の鉄山労働者
鉄山師
炭焼き
杣と木挽
山地交通のにない手
山から里へ
民衆仏教と山間文化
著者等紹介
宮本常一[ミヤモトツネイチ]
1907年、山口県周防大島生まれ。民俗学者。天王寺師範学校卒。武蔵野美術大学教授。文学博士。徹底したフィールドワークと分析で、生活の実態に密着した研究ぶりは「宮本民俗学」と称される領域を開拓した。1981年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
文庫フリーク@灯れ松明の火
104
1907年生まれの宮本常一氏による、サンカ・マタギ・杣人・木地屋・鉱山師・炭焼き等、定住することなく奥山に生きた漂泊の民についてのフィールドワーク。刊行は約50年前の1964年。興味深く読んだのは、砂鉄や銅などを精錬するたたら炉に使われる炭。山本兼一さん『いっしん虎徹』では砂鉄を沸かすためのたたら炉(長さ約3メートル・幅約90センチ・高さ約120センチ)で、1回の操業に砂鉄・約11トン、炭・約13トンが使われている。砂鉄11トンもさることながら、炭13トンを得るにはどれだけの木を伐採し、幾人の炭焼きが→続2015/11/28
nobi
79
昭和30年代末出版。今や当時の山の生活の面影を見ることも故事来歴を聞くことも難しくなっている、そんな山の民族史をこの時代に読む意味って何?でも全18章+付録の論考というより語りは中々面白い。国内くまなく踏破している語り手が繰り出すのは、山伏や落人の姿、奈良、戦国時代等の山の情景。特に東大寺建立での柱調達の苦労の話(六章)と伊丹、堺などの酒造業発達を支えた樽丸師の話(十六章)は活気あるシーンが目に浮かぶ。付録は飛行機の窓からの光景から着想した壮大な仮説、と血気盛んな山岳人の末路。インパクトある読書になった。2019/11/02
tamami
70
さるキャンペーンで取り上げられた中の一冊。思わぬ出会いに心から感謝。この本には遙か以前から列島に生きてきた人々の、文献や年表には記されることがない、山に生まれ山とともに生きそこに死んでいった人々の、生活そのものが宮本常一という希有な伝承者によって具に記される。それらの生き繋いでいた人々がいたからこそ、今の自分がある。そんな想いを抱きながら読み終える。中国山地の蹈鞴場のこと、炭焼きのこと等、教えられたことも少なくない。付録の「山と人間」には宮本さんの考えの神髄が記されている。平地民を戦慄させる高地人を思う。2023/11/15
Shoji
60
民俗学者の作者が丁寧に現地踏査して書き起こした「山に暮らす人々の生活」です。生活の糧としての、あるいは信仰としての、山での狩猟、畑作、採収、木工など、かなり多岐に渡っています。日本の山はとても急峻で人々を寄せ付けない厳しさがあります。そんな急峻な山岳地だからこそ伝承されてきた民俗をいつまでも後世に残して欲しいと思いました。2019/01/28
翔亀
55
柳田国男「山の人生」で語られた縄文人の生き残りたる"山人"は、日本人と異質な異民族として幻視されるが、宮本さんにかかると私たちの内なる民族として身近に感じられる。水田を営む農民=平地人が山に入っても棚田など必ず米作をする。しかし山に住む人は、米作が可能なのに焼き畑しかしない。平地人と全く違う生活様式をもつ縄文人=狩猟民族の系譜を伝えていると推論する。そういった狩猟民族の住む山奥の集落を実際に訪れ、古文書を紐解きながらその実像を鮮やかに再現する。彼らは近世になっても「政治圏から逸出」するか、激しく平地人と↓2016/09/09