内容説明
“ボォーン、ボォーン、ウィップ、ウィップ”、世界の終わりにひびく鯨たちのうたをきけ―。調査捕鯨船と反捕鯨船グループのサイケデリックな迷走に、『白鯨』の黙示を甦えらせて絶讃を浴びた、新世代の旗手による第三回三島賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
18
言わずと知れたメルヴィル『白鯨』のオマージュであり、筒井康隆がメタフィクションの傑作と評し、中上健次ら審査員の大絶賛を以て三島賞を受賞した、なんかすごい小説。主人公は、みずからを『白鯨』の語り手イシュメールと同一視する狂人・石丸某。彼の精神は虚実の境目を失し、あまつさえ物語の中盤においては、彼の生み出した虚構が現実を呑みこんでしまう。これはメタフィクションの形式において読者がカタルシスを得る稀有な瞬間だろう。解説には『白鯨』を読んでいなくても楽しめるとあるが、読んでいたほうが数倍楽しめることは間違いない。2012/04/29
大福
4
捕鯨の様子や海の様子がアリアリと浮かんでくる。綿密に取材して描いたのか。本当に作者はこの船に乗って書いたドキュメンタリーじゃないかと思わせるようなリアリティがある。だが相反するかのように主人公は分裂を抱え、現実から疎外されている。船体に張り付いた氷を何度はがしてもまた氷が張り付くように、主人公と現実との間には膜が幾重にも張り重ねられていく。このことによって、物語は単なる捕鯨と反捕鯨組織との緊張の駆け引きという図式を超えたところに行く。一体何面体の作りの物語なのかと思わせるほどの読みの可能性がある小説。2013/07/04
メデスキ
1
あ、やべ、何か読み逃がした―――とは思いつつも、しかし前のページに戻ってまでは読みたくないメタフィクション。しかし、怒濤の展開になっていき、お、お前、誰や!クソ、何がどうなっているのか解からん!?とスーツ姿でアフリカ原住民の乱交現場のなかに放り込まれた気分に。が、語り口が面白いので不快にはならなかったのが救い。そう、男も女も楽しそうに原住民たちは乱交に励んでいたのだ。俺はスーツ姿のまま、途中で椅子に座り、どこなんだここは?と険しい表情で楽しそうな彼らを眺めた。
ポチ
0
作者は書いててよく、この物語の手綱を引いて最後までゴールできたと思います。2020/10/31
Yuki
0
メタフィクションとパロディ。前衛的小説の模範的にすぎる。この小説自体が、まるで愛玩人形のようではないか。2018/11/24