出版社内容情報
自ら銃殺刑を求めた殺人犯の実弟が、血の絆、傷つけられた子ども時代、家族の秘密をたどりつつ、魂の再生を求めた鮮烈な問題作
内容説明
僕の兄は罪もない人々を殺した。何が兄の中に殺人の胎児を生みつけていったのか?―四人兄弟の末弟が一家の歴史に分け入り、衝撃的な「トラウマのクロニクル」を語り明かす。暗い秘密、砕かれた希望、歴史の闇から立ち現われる家族の悪霊…殺人はまず、精神の殺人からはじまった。村上春樹渾身の翻訳ノンフィクション作品。
目次
第1部 モルモンの幽霊(兄弟;血の絆;ジョーダン・レインの家;アルタと死んだインディアン)
第2部 黒い羊と、拒絶された息子(黒い羊;拒絶された息子;フェイの秘密;さすらいの年月;定着した一家)
第3部 兄弟(見知らぬ者たち;片隅の少年;青春の暴走;父との暮らし)
第4部 ある種の人々の死にざま(兄たちの肖像)
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
505
原作既読。春樹さまの翻訳(とあとがき)を読みたくて。訳に関していえば、残念ながらぎこちなさが目立つ。今作、モルモン教の歴史から始まるところが一筋縄ではいかない。旧約聖書のようではないか。犯罪者先天主義を唱えるわたしも、この家庭においては環境に最大の問題があったことを否定できない。ただやはり「時代」もあったんだろうな。母のベッシーがこの男を見限れなかったのも。息子たちを守りきれなかったのも。原作:https://bookmeter.com/books/19858112024/08/06
ヴェネツィア
148
本書は全米批評家協会賞(伝記部門)を受賞。伝記全体としての主人公は次兄のゲイリーだと思われるが、それは同時に家族としての伝記でもある。作者は4人兄弟の末弟マイケル。彼だけは、この相当に変った家族の、いわば「疾風怒涛時代」の後に生まれており、その意味では兄弟の中でも仲間はずれであり、したがってまた客観的に語ることができるのである。しかし、調査を進めていくに従って父もまた得体の知れない犯罪者であり、母もまたそれに荷担していったことが明らかになってゆく。この書はマイケルによる自らの家族の徹底した解剖図なのだ。2014/08/23
ムッネニーク
111
40冊目『心臓を貫かれて 上』(マイケル・ギルモア 著、村上春樹 訳、1999年10月、文藝春秋) 1976年に死刑判決を受けた殺人犯ゲイリー・ギルモア。 死刑になることを望み殺人を犯したゲイリーの存在は、当時のアメリカで死刑の正当性についての大きな議論を巻き起こしたらしい。 本書は彼の実弟マイケルが、なぜ兄が凶行に走ってしまったのかを探るべく、一族の歴史を紐解いていくというノンフィクション小説。 白日の下に晒されるギルモア家の歴史は凄惨の一言。 「おまえたちは俺の最後の殺人を幇助しくれるわけだ」2023/05/06
やいっち
97
東京在住の十数年前、近所の書店で発見。根っからの犯罪者。死刑に処されない限り犯行は止まることはない……。アメリカが生んだ悪なのか。殺伐過ぎて読むよう薦める気は毛頭ない。気持ちが荒むだけ。こうした現実から目を背けてたほうが、安閑としてられる……。余談だが、当時は村上春樹訳だとはほとんど認識してなかった。今にしてびっくりしてる。頓珍漢だなー。
優希
89
闇の家族のクロニクルを見ているようでした。殺人を犯した兄をとことん突き詰めながら、家族の暗い秘密や崩壊していく希望をも描いている。これは破滅へと堕ちていく家族の物語でもあるのですね。殺人は人を殺したのみならず、精神をも殺していたという事実だと思われるので。ノンフィクションならではの怖さが襲いかかってきました。下巻も読みます。 2018/05/28