出版社内容情報
2084年、東京。計算資源化された植物都市の若者が目にする、人と植物の新たな共生のビジョンとは? 書き下ろしを加えて文庫化。
内容説明
2084年、人類が植物の生理機能を演算に応用する技術「フロラ」を生み出した未来。東京は23区全体を取り囲む環状緑地帯により巨大な計算資源都市へ発展していた。フロラ企業に勤める砂山淵彦は、とある事故調査の過程で天才植物学者の折口鶲と出逢う。若者たちを通して描かれる、植物と人類の新たなる共生のヴィジョンとは?SFコンテスト大賞受賞作、本篇のその後を描いた中篇を追加して文庫化。
著者等紹介
津久井五月[ツクイイツキ]
1992年生まれ。栃木県那須町出身。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2017年、『コルヌトピア』で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
37
【シリーズ森19】SFアンソロジー「ポストコロナのSF」でアメーバの細胞に人間を擬すというSF的ビジョンを展開して最も惹かれた「粘膜の接触について」。これはその作家のデビュー作だ。ニューロコンピューターが脳の神経細胞を模して設計されるのと同様に、森林をコンピューターにしてまうというアイデアだ。東京都をグリーンベルトの森で囲み、森に大規模演算をさせる大 プロジェクトが進行中の近未来社会。植物ネットワークを「フロラ」(現実社会ではある地域の植物の種類相を指す)と呼び、植物をコンピューターネットワークに↓2021/06/16
ぽてち
30
植物をコンピュータとして利用する近未来が舞台の短篇SF。表題作ともう1篇が収録されている。うーん、なんとなくイメージはできるのだが、全体を理解するのは難しかった。ある意味、“新サイバーパンク”とでも呼びたくなるほど斬新なアイディアだと思うが、著者の力不足でうまく説明できないのか、こちらの能力不足ゆえに理解できないのか(おそらく後者)、なんとも言えないもどかしさがある。設定がすべてと言える小説なので悔しい。第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。2022/04/22
そふぃあ
29
以前読んだ『量子力学で生命の謎を解く』で、植物がエネルギー輸送に量子プロセスを利用しているという研究内容から、未来のコンピュータは現代のものと全く異なる姿をしているかもしれないというヴィジョンを展開していたが、本作はまさに植物を計算資源として活用し発展した近未来都市東京を描くSF小説。植物に溢れる都市はまるで楽園のようだが、物語も中々さわやかだった。ウムベルト〈角〉というデバイスが登場するが、『生物から見た世界』は未読なので追って参照したい。 解説でぬか床と会話するシステムというのが出てきて衝撃だった。2022/01/23
TSUBASA
22
2084年、緑に覆われた東京都。人は植物を計算資源として利用するフロラを開発した。ところが突如緑地帯の一部で小規模な事故が発生していた。事故の調査をする砂山は昔出会った友人を思い出す。植物の生態を演算装置として利用するとか、その演算をウムヴェルト<角>を使ってレンダリングして描出するとか、面白い発想だった。世界観とレンダリングによる幻想的な描像に終始している表題作よりも、表題作で語られた事故を種にフロラによってもたらす新世界を予兆させる『蒼転移』の方が好き。2020/08/19
Malos
18
演算技術「フロラ」が生み出された未来。その技術には植物の生理機能が応用され、それを元に東京は計算資源都市へ発展した。2084年、緑地発電システムにおける小規模な火災が発生する。環境と人類の共生を描く、SF作品。2022/03/29