内容説明
造形家である木根原の娘・理沙は、九年前に海辺で溺れてから深昏睡状態にある。「五番めは?」―彼を追いかけてくる幻聴と、モーツァルトの楽曲。高速道路ではありえない津波に遭遇し、各所で七本肢の巨大蜘蛛が目撃されているとも知る。担当医師の龍神は、理沙の夢想が東京に“砂嵐”を巻き起こしていると語るが…。『綺譚集』『11』の稀代の幻視者が、あまりにも精緻に構築した機械仕掛の幻想、全3章。
著者等紹介
津原泰水[ツハラヤスミ]
1964年広島県生まれ。青山学院大学卒。1989年に少女小説作家“津原やすみ”としてデビュー。1997年、“津原泰水”名義の長篇ホラー『妖都』を発表。2006年には自伝的音楽小説『ブラバン』がベストセラーとなり、2009年発表の『バレエ・メカニック』は本格SFとして各種ランキングを席巻した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hit4papa
82
昏睡状態の少女の夢想が東京をのみ込んでいくというSF作品です。三章からなり、画家である女子の父親、主治医、父親のスケッチモデルと主人公を変え、時を隔て物語が紡ぎ出されます。それぞれ章のテイストが異なるのが特徴。一章は、少女の夢が東京に現出し、人々を恐慌に陥らせます。少女が自身の失われた大脳の代わりに都市を使って夢みる、という発想が面白いですね。二章は、恐慌から三年後、死した少女の声が聞こえた人々を訪ねる主治医の物語。終章はさらに40年、懐かしのサイバーパンクの趣となります。分かり難さも含めて...2021/03/05
Vakira
63
思考は言葉にしないと伝わらない。レコーダーがあれば別だが思考は文字にしないと残らない。文字は目で理解する意思伝達の道具だ。何でこんなことを思ったのか?この話の最初の主人公は芸術家であり、性愛に対してジェンダーフリー。この本の書かれている内容はなかなか醜怪。僕はストーリー重視で文章表現においては不感症のはずなのだがその表現の発想は詩的で、グロテスクな内容と融合してモゾモゾと感受性が動き出した。章によって変わる語り。その語りによって文章表現も変わっていく。そしてストーリーはSFだ。段々「AKIRA」の世界感2020/06/17
こばまり
62
なんだかよく分からないけどスゴイ!と鼻息荒く読了。筒井先生の帯コメントにもあるようにSFでありながら前衛的。読者は煙に巻かれながらも、固唾を飲んでお終いまで付き合ってしまう。奔流のような小説だが振り返れば300頁にも満たない濃密さ。なんだかよく分からないけどまたいつか読もうと思わせる力がある。2016/07/12
hanchyan@連戦連勝の前には必ず負けがある
47
美文である。といっても、流麗とかたおやかとか、あるいは黄金比的なバランスの良さとかより何より、たとえば鍛え上げられたアスリートの肉体美のような印象の文体だ。あたかも物語を物語るのに特化した美なのです。さて。無辜なるものへの哀惜・去り行くものへの哀切、変容するものへの畏れと期待、移ろいゆくものへの諦念とほのかな希望、などなどを、瑞々しい文体で綴ったスリップストリーム小説。とかいうとまるでハルキムラカミ作品のようだが(笑)。とてもとても面白かった。しみじみと感動しました。2019/12/17
吉野ヶ里
46
一章読んでくそ小説かと思ったら、意外と良い感じの話だった。シュルレアリズムから、サイバーパンク。疾走感は悪くない。理沙自体が姿を現さないのも秀逸。基本的に主人公たちの性が倒錯しているのはなにかの暗示か? 龍神先生の話が一番好き。ブラジャーと戦争。木根原くんもけっこう好み。わけわかんねえ世界観で人間をよく動かせてると思う。ヴィジュアルとして文章が入ってきやすかったのも好感触。ただちょっと知識をひけらかし過ぎな感はある。不必要な描写は削るべき。三章の問題意識の捉え方も良い。個人という概念の変化。共有。2016/05/27