出版社内容情報
百年戦争のさなかに現れた一人の少女。彼女は、たった2年でフランスの運命を変えた。
誰もが一度は耳にしたことがある「歴史的事件」と、誰もが疑問を抱く一つの「問い」を軸に、各国史の第一人者が過去と現在をつないで未来を見通す新シリーズ! 第1回配本。 百年戦争を勝利へと導いたジャンヌ・ダルク。権力者でもない、普通の農家の一人の娘が、なぜ「救国の英雄」となり、その後、火刑に処されたのか。巫女から魔女へ、魔女から聖女へ――。フランス国家統合の象徴となった奇跡を見る。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
121
NHK世界史のリテラシーシリーズ。薄いが共時的と通時的の双方の時間軸での記述があり読み応えがある。イギリスが優勢であった英仏百年戦争にて1429年神の声に導かれ、オルレアンの街を解放し、ランスの聖堂で王太子シャルルの戴冠を成功させた。その後、異端裁判で有罪となり1431年処刑された。しかし1456年復権裁判で復権を認められて、1920年に聖女として列聖された。当時、女性宗教者で女預言者は多く、自然の超自然力を信じることと騎士道文化が彼女の活躍を支えた。フランス革命時に復権させたのはナポレオンであった。2023/05/23
aika
45
シャルル王太子の酷い仕打ちと火刑という最期に、子供の頃に伝記で読んで悲惨な印象が離れなかったジャンヌ・ダルク。純粋な信仰心を原動力にしてフランスの歴史を変えた偉業、オルレアン解放を中心にして歴史的背景から彼女の生涯が辿れます。ジャンヌに今でも人々が魅了される理由を「民衆の一人、田舎娘が決然と行動しその場で即座に、奇跡のように歴史を動かし転換させて、驚くべき人間の可能性を開示してくれるから」と端的に表した著者の見解がスッと腑に落ちました。ジャンヌ亡き後、復権裁判から現代での受容まで知れて興味深かったです。2023/05/28
サアベドラ
36
百年戦争末期に農家の娘が奇跡というべき行状を成し遂げた理由を西洋中世史の大家が平易な言葉で考察するリブレット。2023年刊。ジャンヌの歴史上の動きと受容史については本書より世界史リブレット人のほうが詳しい。ともすればシャルル7世に都合良く使われ捨てられた悲劇の乙女として描かれがちな彼女であるが、本書では中世末期のツァイトガイストにおいて、pp.90-94でまとめられる4つの要素を体現していたがゆえにかの偉業を成し遂げることができたとしている。答えのない問題の回答の1つとして、まあ参考にはなるかもしれない。2024/02/01
kei-zu
24
聖女とまで言われながら、一転して魔女裁判により命を落とす。背景にあったという当時の欧州の政治模様に理解が及んだと言えないが、あがめられた要素がそのままマイナスに転じる人の世の恐ろしさをみる。裁判記録など本人の言も含む資料が残っているそうで、解説もわかりやすかったです。2024/06/29
G-dark
23
この本の中で特にわたしの心を打ったのは、処刑裁判の記録に残る彼女自身の言葉です。執拗に失言を誘う尋問に対して、彼女は毅然と答えています。その凛とした態度に比べて、あの手この手で彼女を有罪にしようとする者たちの思惑ときたら醜いものです。「十字架を目の前において欲しい」と最期まで頼んだ彼女と、そんな彼女を生きたまま焼いて晒しものにしたあげく遺骸を捨てた者たちと、一体どちらが「神をないがしろにした」と言えるのか…。つくづく考えさせられました。2023/10/14