内容説明
赤線地帯の疲労が心と身体に降り積もり、繊細な神経の女たちはいつの間にか街から抜け出せなくなってゆく―「原色の街」第一稿や芥川賞受賞作「驟雨」を含む“赤線の娼婦”を描いた作品十篇を収める自選集に、関連するエッセイを加えた決定版。
著者等紹介
吉行淳之介[ヨシユキジュンノスケ]
大正13年、岡山市に生まれ、三歳のとき東京に移る。麻布中学から旧制静岡高校に入学。昭和18年9月、岡山連隊に入営するが気管支喘息のため四日で帰郷。20年東大英文科に入学。大学時代より「新思潮」「世代」等の同人となり小説を書く。大学を中退してしばらく「モダン日本」の記者となる。29年に「驟雨」で第三十一回芥川賞を受賞。45年には『暗室』で第六回谷崎潤一郎賞を受賞する。平成6年7月死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゴンゾウ@新潮部
103
戦後の赤線地帯の住人達の短編集。生きていく為に性を売る世界に飛び込んだ女達。一度この世界に慣れてしまうと再びまた戻ってきてしまう女達の心境が儚く切ない。身体だけの割り切った関係から本当に愛し合ってしまう。 本当はこんなに綺麗な話だけでは無かったに違いないが確かに実在した歴史なんだと思う。2016/07/03
こばまり
48
殆ど既読の作品群でしたが、このように一つに集められますと、底光りするような魅力を湛えてなお一層胸に迫りました。二十歳やそこいらで読んだ頃にピンとこなかったのは相性ではなく、己の成熟が足りなかったのだと気付かされました。今も大して成熟しておりませんが。今年は吉行氏没後20年。2014/12/17
ひなきち
26
どの短編も似通っている、しかし不思議と飽きることはなかった。著者は赤線を、日常のすき間にある「異世界」と捉えていたようだが、典型的パターンである「行きて帰りし」になってない話がけっこう多かった。娼婦の闇は、客をも侵食して丸呑みしてしまうのかもしれない。いまはない昭和の娼婦の実態に迫った、貴重な文化資料になりそう。ルポでもいいような気もするが、白昼夢のような心象風景が独特で、やはり小説として読む方がいい。2017/01/31
佐島楓
21
小説などの中でしか見たことのない「赤線」という世界。収録されたエッセイをつぶさに読んでいくと、著者の実体験によるものが大きい作品ばかりということがわかる。しかし女性の心理、感覚までおそろしいまでにつかめている点はなんといえばよいのだろう。歴史的にはこういう時代もあったのだ、ということを知っておくにはよいかと思う(たかだか数十年前、戦後すぐのころではあるのだが)。2014/08/23
カバミ
14
確か江國香織さんが『娼婦の部屋』を絶賛していたので手にとった。吉行淳之介の小説は初めて読んだが、私個人が『娼婦』という言葉から連想した、ふしだらな内容ではなく、とても綺麗な文章で、景色で、人物描写で、心が洗われるようだった。2017/01/10