内容説明
清朝末期、膠州湾一帯を租借したドイツ人の暴虐の果てに妻子と隣人を奪われた孫丙は、怒り心頭し鉄道敷設現場を襲撃する。近代装備の軍隊による非道な行いの前には、人の尊厳はありえないのか。哀切な猫腔が響き渡り、壮大な歴史絵巻が花開く。現代中国文学の最高峰と誉れ高い莫言文学、待望の文庫化。
著者等紹介
莫言[モオイエン]
1955年、山東省高密県に農民の子として生まれる。幼くして文革に遭い、小学校を中退。兄の教科書や旧小説で文学に目覚める。76年に人民解放軍に入隊。85年に『透明な赤蕪』でデビュー。翌86年、『赤いコーリャン』で、倫理を超える農民の生命力を描いて絶賛される。『白檀の刑』で、第1回鼎鈞文学賞を受賞
吉田富夫[ヨシダトミオ]
1935年、広島県生まれ。63年、京都大学大学院修了。佛教大学文学部名誉教授。現代中国研究会会長。中国現代文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
85
ノーベル文学賞作家莫言の作品。清朝末期の中国処刑人を生業とする一家がドイツ人の暴虐に立ち上がり・・という話だが、訳のせいなのか 文体がややくどい感じ。下巻の盛り上がりに期待。2012/12/02
長谷川透
33
裏表紙の粗筋だけを読めば、西洋列強に国土を蝕まれ日清戦争の敗北後の新王朝の没落、そして列強統治による暗澹たる市民の生活を色濃く精緻に書かれた小説を想像してしまう。実際、処刑の描写はおぞましく、慄く場面も多かったが、物語は荒唐無稽であり、この界隈に生きる人物はほとんど例外なく滑稽で暗い時代に生きているとは思えないほど勢いがある。『白檀の刑』という題名の重々しさとは裏腹に、気構えて読む必要など微塵もない。ノーベル文学賞の候補に挙がる前には全く知らなかった作家であるが激動の渦中で執筆している作家の勢いを感じた。2012/10/24
そふぃあ
31
残虐で汚くて口が悪いけど面白いなと読んでいた。けれど処刑の章は読みながら手が震えて身体がサーッと冷えてくのが分かって、その後しばらく怖くて動けなかった。怖がりなので事前に凌遅刑とは何なのかWikipediaで調べて読んだのだが、概要だけを知るのと具体的にどんなやり方でどんな様子で処刑が進むのか知るのとでは天と地ほどの差があることを思い知った。処刑人はただ残虐なのではなく、職人の高度な技や心持ちが求められることがこの本には記してある。しっかりやらなければお上の怒りを買い処刑人自身の首が飛ぶことになるからだ。2024/02/28
みつ
27
舞台は、西太后が権力を握るもはや断末魔の状態にある清帝国。上巻の半分を占める「頭部」は、叛乱の首魁となる役者の娘眉娘(びじょう)、死刑執行人趙甲、その息子で眉娘の夫小甲、眉娘を愛人に持つ知事銭丁(せんてい)の4人による一人称独白形式を採る。三人称形式の「腹部」でようやく物語の全貌が明らかになる。「梁遅」という身体を少しずつ切り刻みながら、定められた(第一等は三千以上)回数の直前まで生かしておくという残虐な刑罰の克明な描写は息を呑むほかはない。これ自体、西欧列強に徐々に侵食された中国の暗喩にも見えてくる。2025/12/12
田中
27
「趙甲」は都でその名を轟かせている最高位の処刑人。「銭雄飛」をきっちりと第五百刀で息を途絶えさせるシーンは、凄惨すぎて読むのが苦しくなった。こんなに酷い死刑とは恐ろしい。そして熟達した神業のようだ。嫁と子供がドイツ兵に殺められた「孫丙」は復讐に決起する。不条理で残酷な場面がおおいが、その人物の心象をふかく叙述し、重層的に人々が繋がるのだ。滑稽な所業を描写し人間の本質を揶揄するところもあって面白い。「髭くらべ」では、その髭の特質で白黒付ける場面は愉快だった。平易な文体で視覚的であり引きこまれる一冊だろう。2023/12/17




