内容説明
阿片戦争から中華人民共和国成立までの約百年間の中国近代史は、阿片抜きには語れない。阿片という麻薬に、これほど蹂躙された国は、世界史の中でも例がない。中国人が麻薬としての阿片を知ったのはいつのことか。最初はどこから入ってきたのか。なぜ、超大国・清がいとも簡単に阿片に侵されてしまったのか。そして共産党と阿片の知られざる関係とは――。中国と阿片の長い歴史をひもとく。
目次
序章 煙館
第1章 ケシの到来
第2章 尼さんの阿片
第3章 「新商品」に生まれ変わった阿片
第4章 小説と現実の阿片商人
第5章 千トンの白煙
第6章 阿片戦争
第7章 日本にはなぜ蔓延しなかったのか
第8章 悪魔の密約
最終章 毛沢東と阿片
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
小鈴
33
壮大な中国阿片史を簡潔にしかも容易な文章でまとめた本。全体像がわかり大変勉強になりました。清朝に阿片が蔓延したのはイギリスの三角貿易のせいではなく、そもそも中国が豊かでかつ流通網が確立していたから。具体的には塩の流通網が阿片の流通網にもなった。阿片を制することは流通網を制すること。関東軍も国民党も独自のルートを制して財政赤字を阿片マネーで賄う。財政問題で阿片が手放せない。中国共産党が成功したのは禁煙運動だけでなく、政治運動で流通が遮断され麻痺して長引いたせい。納得です。2021/06/06
Roadblue
7
中国が「核心的利益」とする地域の一つ、香港。核心的利益とは政治用語、中国が国家主権、安全保障、領土の保全及び自国の開発の観点から国家利益と考えるもの。だが、香港は歴史的経緯から定義に照らして云々するまでもなく、誰が見ても本来自国の一部であることは言うまでもないだろう。 問題は自国化の進め方、そこに世界中の耳目が集まっている。香港が一体どのような経緯で他国の領土になっていたか、を中国人が書いた本でおさらいしたいと思い本書を探し手にとった。残念だが芥子の蘊蓄が豊富なこと以外特に新しい発見はなく拍子抜け。2021/10/10
こにいせ
6
良書。近代史における「阿片」とは、単なるドラッグではなく、精製され、加工されて、資本家のマーケティングに従って中国という「消費者」に届けられ、莫大な富と腐敗、戦争を生んだ『商品』なのだ。筆者は中国人の父と日本人の母をもつハーフ。イデオロギカルな話に陥らずに、日中欧の近代を書くバランス感覚は、普通の日本人も中国人も見習って欲しいものである。終章の、自身のアイデンティティに関するアンビバレントな気持ちをきちんと表明するあたり、非常に好感が持てる。2010/03/11
hr
5
古書店で見つけて、参考文献に陳舜臣の「実録 アヘン戦争」が含まれているのを確認して思わず購入。「アヘン戦争」だけを描くのではなく、19世紀から20世紀の中国史を「阿片」で繋ぐ形の興味深い内容でした。20世紀に入ってからの日本は、中国でアヘン絡みで儲けている。岸信介関連の本にそんなことが書かれていた記憶があるので、再読しよう。欧米列強の仲間入りを進めていく明治政府を『「いじめられっ子」にならないためには、先に「いじめっ子」の仲間に入ることである』という文章で説明がしてある。頷かざるを得ない。2016/02/21
in medio tutissimus ibis.
4
中国に阿片がもたらされたのがつい最近(歴史的レベルで)の話だというのにビックリ。なんとなく昔からあるような気はしていたが、よく考えればそれではイギリスの商品になるわけもないのだった。巨大な流通網と経済力を有していた中国がそれ故に素早く吸収され、国を滅ぼしてなお拭いがたかった阿片の害が、その売買に手を染めていた中国共産党の八つ当たりに近いキャンペーンで滅びたというのも中々皮肉というかドラマチックというか。インドが阿片の供給元だったというのに阿片の禍が見当たらないのは戦略物資として統制されていたから、も皮肉。2016/06/20