内容説明
戦前から戦後にかけての激変。支配・被支配の転倒。混乱、渾沌の中で、新たな生を獲得した“女”を鮮烈に捉え、戦後の日本に大きな震憾をもたらした武田泰淳の初期作品「才子佳人」「蝮のすえ」「『愛』のかたち」の3篇を収録。時代を超えて透視する眼、したたかな精神のしなやかな鞭。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
57
表題作二編には、いずれも複数の男性と関係を持つ女性と、それに翻弄される男性が登場する。戦後直後、新しい生き方を獲得した女性が主題なのだろうか? 男性側も恋愛観が歪んでいるように思える。空恐ろしくなるような作品。2016/11/03
D21 レム
23
「才子佳人」はなるほどと思った。「蝮のすえ」は男女で感想が違うのじゃないかと思う。戦後すぐの上海の租界という特殊な環境での、もつれた男女の話。いやーな男性といやーな女性がでてきて、言わなければいいことをずけずけと言い合って、それぞれ自分だけの感慨に浸る。「愛のかたち」も似たお話。何かに特別に恵まれた人が時々見せる欠落した部分。うんざりしたのだが、この状況でこの女性があらわれたら、男性ならこうなるのだろうな、でも、自分が男性ならかかわりたくはないな、自分は冷静すぎるのかな…などいろいろと思った!2015/09/15
メタボン
22
☆☆☆★ 蝮のすえの彼女と、愛のかたちの町子がだぶって見えた。どちらも複数の男と関係する佳人そして婬女とも言える。女の人物造形が圧倒的でありどうも男の影は薄い。しかもやたらと観念的ときている。登場人物達に共感は出来なかったものの、面白く読んだ。愛のかたちの大便シーンには凄まじいものを感じた。才子佳人は今ひとつ読みきれなかった。2018/12/28
いぎーた
10
小説3篇。『才子佳人』は自ら作り上げた虚構への諦観と、幻への憧憬が詩的に描かれた作品で、結末も味わい深い。次の2篇では何れも、決断力のない男が出会った女を軸に快感と見栄と環境に流されながら変わっていく心理が描かれる。女性の美しさを肉体にのみ見出す「無感覚な人形」の男。凡庸にも思える(だからこそ近しい存在として読める)その像を、当人含め誰もが見誤る。愛がすれ違う。とても読み応えのある作品集だ。ちなみに私は肉体と精神とを分離して考えない。内面は外面に溢れると思っている。鏡に映るなかなか不細工な私が私であると。2017/03/18
勝浩1958
7
「いやおうなしの慾望や、むりにでも行為したい情熱がない場合、かえって人は道徳倫理の壁さえ意識しないで暮らせるから、いつか非倫理、非道徳の人間となりおわるのではないか。」光雄の場合は確かに当てはまりそうですが、「むりにでも行為したい情熱」をもつ今の為政者に倫理や道徳があるようには思えないのです。それにしても『蝮のすえ』の彼女も『「愛」のかたち』の町子も私にとっては得体の知れない女性でありますが、でも実際にこのような女性が目の前に現れたら惹かれるのでしょうね。2015/07/11