内容説明
16世紀に始まった科学革命は、世界を数量的に表現しようとする考え方をもたらした。けれども、それによって「心」に帰属するものが排除され、自然と人間の分離、主観と客観の対立が生じることになった。常識が科学へ展開していく不可逆的な過程で、何が生じたのだろうか。近代以降の科学史的事実を精査し、人間と自然との一体性を回復する方途をさぐる。
目次
1 概説的序論
2 略画的世界観
3 日本における略画世界
4 西欧古代中世における略画的世界観
5 略画の密画化、その始まり
6 略画の密画化、不可避の過程
7 密画化と数量化
8 密画の陥穽―物の死物化
9 感覚的性質のストリップ
10 二元論の構造的欠陥
11 二元論批判
12 原子論による密画描写
13 人体の密画描写と知覚因果説
14 物と感覚の一心同体性
15 自然の再活性化
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
テツ
13
近代に至る過程で人々が己の内側で創り上げるべき世界のベースは略画的世界観から密画的世界観へと移行した。「他者と同じモノを目にしていたとしても、自分と他者の内部で同じように像を結んでいるかは決してわからない」というよくよく考えてみればあたりまえのことでさえ想像すらしなくなってしまった。世界は主観的にしか観測できないんだという今更な事実への気づきと、そこから新しく形成されていく瑞々しく色鮮やかな新しい世界の姿。客観視することだけが全てではない。何事においてもきっと。2021/05/08
Bartleby
13
大森は近代以前から以後までの科学史を略画的世界観から密画的世界観への移行という枠組みで語る。その過程で自然の死物化という問題が起こってしまった原因を整理し、最後に略画と密画の二つの世界観の「重ね描き」によってその問題を解決してみせる。ガリレオやハーヴェイなど多くの文献を参照しつつ丁寧に説明される前半の科学史も分かりやすく、後半に語られる著者独自の解決法もシンプルながら説得力のあるものに感じた。2014/05/17
白義
11
大森アニミズムの真骨頂。ガリレオやデカルトに端を発する近代科学的な世界観の袋小路から抜け出し、生気の抜けた自然に再び生気と心を取り戻すために著者が採用するのは、極めて単純にして精確な方法──近代科学による密画的世界描写と前近代的な思索による略画的世界描写を緻密に歴史から追い、並べ、前者の上に、そのまま前者に追放された後者を重ね描く。縮めて言えば、科学的世界と呪術的世界を両立させどっちも語り方の違いだという、たったそれだけのことだ。無論これは相対主義ではなく、現代科学の擁護と成り立つ思想でもある2012/08/17
isao_key
10
放送大学設立に際して教科書として書かれたもの。はしがきに「日常生活から遠く高く離れて難解な学問と誤解されがちな自然科学を、実は日常的な常識に密着して展開されたより詳しいお話としてみること」と意図を述べる。序盤で朱子学の「理」「気」二元論を引いて仁斎、徂徠の考えを紹介している。「気」について朱子の気はガス状の物質、しかし生気をもつ霊的な物質である。この霊的な物質が人間をも含む宇宙の万物の共通素材なのだという。一方「理」はギリシア哲学の「形相」に近い、それは事物の形態であり用途であり目的であるからだという。2014/05/08
ichiro-k
10
「テツガク好き」気取りで、読書ジャンルに偏りがあり、精神的にバランスが悪い(閉塞感がありますます気力が涌かない)大震災の翌週、元の職場の読書好きの上司と「読書感想」を肴に酒を呑む。自分は物事に対して「ココロザシ」が低いので、愚痴にならないように気を付けた。常に「こんなもんだろう」と納得してしまうネガティブな性格は、これ「ココロザシの低さ」が原因ではないか?本書は、大学の教科書のようで面白みはない。気になる箇所→①自分ではない他人の心はもはや透明ではない。いや全く不透明だというべきだろう。他人の痛みは自分に2011/03/27