内容説明
大久保清事件をもとに書かれた名作の上巻。
波多雪子の家の庭先に咲いていたヘヴンリー・ブルー(天上の青)という朝顔を見て、「きれいな青だなあ」といって近づいてきた宇野富士男。じつは三十過ぎだというのに定職を持たず、青果店を営む実家に寄生しながら気ままに生きている男だった。その後も時折訪ねてくるようになった富士男のことを、「いささかの不実の匂いのする男」だと感じながらも穏やかに受け入れる雪子は、富士男が他の女性と交わった話を聞いても動じるようなそぶりは見せない。しかし、「俺がもっと決定的にだめな人間だってわかった時、あんたは愛想を尽かすよ」という富士男は、連続殺人犯だった。
女子高生やデパート店員、書店の客など、誘いに乗りそうな女性に声をかけ、天才的ともいえる作り話で共感を誘って、最後は自分勝手な怒りを爆発させ殺してしまう――。でも、凶行に及んだあとは、決まって雪子を思い出し、「一度でいいから膝枕さしてくれないかな。そうすると、とても安心できるような気がするんだ」と甘えたりする。はたしてこの奇妙な関係はいつまで続くのか――。
1970年代に発生した連続殺人事件を下敷きに書かれた渾身の長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
はやこま
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令和の時代にはないある種昭和な会話の運び、言葉の選び方などに魅了された。特に雪子と富士男の会話は味わい深く、全く種類は違うが村上春樹小説の会話にも感じるいい意味での現実味の無さに通じる。調べてみたら1988年から90年に毎日新聞で掲載された小説とのこと。それでも文体はかなり読みやすく、ぶ厚い文庫だがスラスラと読了に漕ぎ着けた。物語はルサンチマンの塊のような無職男が女性たちに対して身勝手な暴力を振るう内容。殺す、殺さないの判断も極めて刹那的。性犯罪に対する当時の女性の考え方がこれまた昭和的で感慨深かった。2025/11/17




