内容説明
人間を決めるのは「生まれ」か、それとも「育ち」なのか。いまだに議論の応酬がやまないこの論争に介入し、世界中で大反響を巻き起こした認知心理学者スティーブン・ピンカーの代表作。本書でピンカーは、人間の心は「空白の石版(ブランク・スレート)」であってすべては環境により決定されるという議論に対し、性差など「生まれつき」の要素を無視することはできないとして徹底的な反証を繰り広げる。現代科学の膨大な研究蓄積を武器に、「人間らしさ」の根源を問う、現代の古典というべき一冊。上巻は、人間本性の存在を否定することの危うさを論じた「第III部 四つの恐怖を克服する」まで。
目次
はじめに/I 三つの公式理論──ブランク・スレート、高貴な野蛮人、機械のなかの幽霊/第1章 心は「空白の石版」か/第2章 ブランク・スレート、アカデミズムを乗っ取る/第3章 ゆらぐ公式理論/第4章 文化と科学を結びつける/第5章 ブランク・スレートの最後の抵抗/II 知の欺瞞──科学から顔をそむける知識人たち/第6章 不当な政治的攻撃/第7章 すべては詭弁だった──「三位一体」信仰を検討する/III 四つの恐怖を克服する──不平等・不道徳・無責任・ニヒリズム/第8章 もし生まれついての差異があるのならば……/第9章 もし努力しても無駄ならば……/第10章 もしすべてがあらかじめ決定されているのならば……/第11章 もし人生に意味がないのならば……/付録/原注/参考文献/人名索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふみあき
54
「ブランク・スレート」と言おうが「タブラ・ラサ」と呼ぼうが、人間が白紙の状態で誕生すると信じている人間は(私のような)庶民には、あまり多くないはずだ。だがインテリの世界は、さにあらず。性差を生み出すのは後天的要因なのだから「全ての女性に主婦という選択肢を禁じろ」とか「フェミニストに文学・芸術を検閲させろ」などの権威主義的主張がまかり通っている。本書では、それらが進化心理学の立場から批判されるが、著者の「ホッブズが正しく、ルソーはまちがっていた」等の発言は、左派には挑発的に聞こえ、彼らを苛立たせるのだろう。2025/02/19
たかひろ
3
「人間の心はなんでも書き込める「空白の石板」である」という、古今東西に存在する主張を徹底的に論駁する。人類必読。2025/07/14
Mits
1
育ちがすべてと考えると、少年犯罪が起こるたびに「育て方が悪い」と親が責められる。これは間違っていると常々思っていた。白黒がはっきりとつく方が考えるのが楽になるだろうが、現実はそんなことはなくて、真実は必ずその間のどこかにあるのだ。決着のつかない問題でも、人間は考え続けることを放棄してはならない。 それと多分、「白黒がはっきりとつく」ことを信じている人の割合は一神教の影響下にある国の方が日本よりも多いと思う。宗教は楽になるための方便だが、本当は楽になっちゃいけないんだ。2025/05/14
qls
1
5 随分と昔の本ではあるが、展開されている社会科学への批判は現代でも通用する。Blank Slate的な教義は根強い 3/22〜3/252025/03/25
Go Extreme
1
三つの公式理論:ブランク・スレート 高貴な野蛮人 機械のなかの幽霊 遺伝と環境 進化心理学 ブランク・スレートの批判:ジョン・ロック 経験主義 遺伝要因 ヒトゲノム 神経科学 学習過程 高貴な野蛮人の検証:ルソー 文化影響 社会環境 道徳観 犯罪と暴力 自然状態 幽霊否定:デカルト 二元論 意識と脳 科学的実証 神経活動 知の欺瞞:知識人の態度 科学否定 優生学 倫理責任 知識階級 批判的思考 四つの恐怖:不平等 無責任 ニヒリズム 価値観形成 社会的影響 結論:心の可塑性 行動科学 教育政策 科学的理解2025/03/16