内容説明
松山地方検察庁地方支部失火事件から端を発した、検事瀬川良一の探索は、巨悪の昏い過去に迫りつつあった。
失火事件で喪われた昭和25年の大島信用金庫殺人事件の記録を復元しようとする瀬川の執念で、重要な証人、当時被疑者とされた山口重太郎の協力で、一気に核心に迫りつつあった。
だが中学を出た娘の東京のデパートへの就職についてきた山口重太郎が、瀬川の使いだと騙った一味にさらわれてしまう。信用金庫の事件の担当検事で、交通事故で亡くなったばかりの大賀庸平の娘冴子も、ようやく瀬川に協力の姿勢を見せつつあった矢先だった。
冴子が示唆した実力者「S」とは、大島信金の職員から、後ろ暗い過去を重ね、群馬の代議士夫妻に取り入り、地盤を乗っ取りのし上がった、山岸正雄改め佐々木信明なのか。
松山地検支部の火災が放火でなく失火と結論づけられている以上、支部の責任検事だった瀬川は覆して覆して、検察当局や警察の手を借りることはできない。
庸平が親しかった四谷署の平塚刑事の協力で、大切な証人は失わずにすんだものの、徒手空拳で若い検事が実力派代議士佐々木信明に迫るには、まだまだ手駒が足りなかった……。
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感想・レビュー
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konoha
47
上下巻で長かったが、塩田武士さんの解説も楽しみに読了。下巻でも情景描写の上手さが光る。瀬川が本来の検事の仕事が手につかないくらい出火事件に隠された真実に執着する様子が印象的。事件とは直接関係ない登場人物の性格や暮らしぶりまで丁寧に描いている。事件自体は多くの人が関わり複雑だが、手紙のやりとりで捜査が進んでいくようなこの時代のシンプルな強さが好き。最後は失望や挫折、前向きな希望もあって良かった。瀬川と冴子の若さがまぶしい。若いけど浮つかず、前へ進む2人を応援したくなった。2025/07/21