内容説明
哲学者カントが訴えた〈永遠平和〉の眼目は、敵意が終わることにある。しかし、それは人間に可能なのか――。「撫順戦犯管理所」。中国で非道を為した日本兵たちがいた場所である。ここで中国人と日本人の間で起きた事態は、カントの理念の現実性を鮮烈なまでに突きつける。撫順を経た人々に加え、本書はアウシュヴィッツ収容所の帰還者やパレスチナ紛争の被害者の声にも耳を澄ませ、人が人を赦すことの意味を問う。人間の根底に光をあてた哲学的考察。
目次
まえがき/映画で/解散式で/撫順戦犯管理所/奇蹟か? /カントの永遠平和/ と約束/本書の構成/第一章 従軍の体験と沈黙/1 戦中派の孤立/すれちがいの同窓生/捕虜の帰国/戦争体験/2 出征まで/友と師/求婚拒否と婚約/3 実的刺突/竹内の恐怖/石渡の下命/渡部の拒否/竹内と石渡の間/4 シベリアのカント/密告拒否/頑固者ふたり/5 撫順での蘇り/八路軍の規律/「撫順」の前駆/学ぶとは/中国人捕虜の問題/生ける証人として/供述書/和辻を超えて/6 沈黙と羞恥/石渡の沈黙/“孤児”として/羞恥の結び目/7 秘匿と虚無に抗って/戦争トラウマと暴力/傷つかない日本人/空虚な中心と天皇教/福沢の「無学」礼賛/西田の無に抗して/“優等生”の七変化/永富の約束/第二章 自己という証拠──悪魔はいない/1 アウシュヴィッツのカント/2 悪のための悪? /悪という病い/シルバーの批判/ジジェクの反論/3 根源悪/アーレントと根源悪/悪と実在的対立/根源悪と原罪/現象的善悪と英知的善悪/法の支配/4 カントの良心/良心という裁き手/心の革命/良心と自己嫌悪/恥と羞恥/自殺者/良心≠法廷/現象人vs.英知人は現実我vs.幻想我ではない/内的 と外的 /5 ドラマと真実/カメラマンと実行者/証拠をめぐる取調/鏡/良心と真実/告白(自白)と担白/高橋哲郎とアイヒマンそしてアーレント/良心の裁き/ベルトルッチの /6 ヒューマニズムと非暴力/敵をも味方に/自制という非暴力/英知の非暴力へ/第三章 死刑を超えて/1 死刑の法理/2 カントとデリダ/死刑の恐怖/人間性と人道/デリダの批判/法論と徳論の異相/自殺について/残酷のゆくえ/3 更生の受け皿/法の絶対性と融通性/償いという実践/フィヒテが進めた歩み/時空の意味/演劇体験/4 再会と再統一/試練の年月/安直な問い/再会のとき/原点/第四章 拷問の果てに──謝罪とはなにか/1 アメリーとイスラエル/他認から自認へ/理性から感情へ/2 平和の祭典/憎悪の祭典/バンクーバーにて/アメリーの怨恨/3 アメリーとレーヴィ/憎悪と暴力/拷問体験/二つの条件/4 テロリストとの“対話”/5 謝罪の筋道/“和解劇”の教訓/断絶と禁句/真実和解委員会/6 土屋芳雄の謝罪と誓い/「ある戦犯の謝罪」/謝罪と弁明/無責任の“謝り”/吉野の眼識と和辻の敵意/許しと赦し/悲願への応答/謝罪碑/7 出会い/アメリーと土屋/劉と土屋の共著/あとがき/ロシアにて/結びに代えて文献表
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