内容説明
圧倒的な「いま」を描く、著者史上最大巨編!
千葉県富津市の清掃会社に勤める町谷亜八(ハチ)は、過去に傷害事件を起こし執行猶予中の身だ。ようやく手に入れた「まっとうな暮らし」からはみ出さぬよう生きている。唯一の愉しみは、祖父の遺したアウディでアクアラインを走ることだった。ある日、血の繋がらない姉・ロクから数年ぶりに連絡が入る。二人の弟、キュウを脅す人物が現れたというのだ。
キュウにはダンスの天賦の才があった。彼の未来を守るため、ハチとロクは、かつてある罪を犯していた。折しも、華々しいデビューを飾り、キュウは一気に注目を集め始めたところである。事件が明るみに出ればスキャンダルは避けられない。弟のため、ハチは平穏な日々から一歩を踏み出す。
一方、キュウをプロデュースする百瀬は、その才能に惚れ込み、コロナ禍に閉塞する人々を変えるカリスマとして彼を売り出しはじめた。<Q>と名付けられたキュウは、SNSを通じ世界中で拡散され続ける。かつてない大規模ゲリラライブの準備が進む中、<Q>への殺害予告が届く――。
抗いようのない現実と、圧倒的な「いま」を描く。世界をアップロードさせる著者渾身の一作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
255
呉 勝浩は、ほとんどの作品を読んでいる作家です。著者の最新作は、ダークアイドルアヴァンギャルド家族小説巨篇でした。タイトルからウルトラQか007のQをイメージしていましたが、全く違いました。昨年読んでいたら2023年のBEST20候補だったかも知れません。QのLIVEを観てみたい♪ https://www.shogakukan.co.jp/pr/q/index.html2024/01/10
パトラッシュ
209
圧倒的な存在が放つ強烈な光を浴びた周囲は、驚愕、憧憬、嫉妬、憎悪など影を浮かび上がらせる。カリスマ的なダンスの天才青年を前にして、ある者は彼の才能を世界に広めようと動き、ある者は自分の届かぬ高みに絶望のあまり殺意を抱き、また自分の利益に利用しようと図ったりと様々な状況を発生させる。そんな無数の思惑が無許可の移動配信ライブというイベントに集約され、ただならぬ不穏な空気に満ちたドラマが展開していく。疾走感あふれるストーリーは面白いのだが、戦争や感染症に混乱する世界をダンスだけでそこまで動かせるのか疑問に思う。2023/12/04
hiace9000
130
目も眩む白熱に曝された暗夜に解き放たれる"Q"の空なる囁きに、抑圧を抱える世の民は酔い、感染し、侵食され、やがて覚醒していく。泥沼で生まれ、ドス黒く華やぐ芸能ビジネスと狂信者たちの愛憎で、真の偶像的カリスマへと祀り上げられる突然変異の妖狐、町井侑九。狂っているのは、時代か社会か、それとも人間かー。 今作でも過激で社会に先鋭な刃を突きつける呉さん。「爆弾」やら「テロ」やら「圧迫」やら…社会の閉塞感と肌感的にすぐ傍にある社会の違和感や不安感に、あの手この手でカウンターを繰り出し、読み手は顔面を打ち砕かれる。2024/02/04
ずっきん
84
手にするとこの分厚さである。もう喜びしかなかった。けしてわたしを裏切らない物語が詰まってるのを知っているから。視覚映像オンチのわたしにキュウの美しさを届けることができるのは文章だけである。小説だからキュウの妖艶さ、ロクの頑迷さ、ハチのもがき苦しみを体験できるのだ。行く末など想像おぼつかず、ただただ息を呑みページを捲りつづける幸せよ。読む喜びとは騙されることだ。なんて心地よい嘘なんだろう。沼だ。どっぷり浸かったままでいたかった。残りページを減らし続けるわたしの興奮と絶望。その葛藤を、あなたもさあ味わえ。2023/12/06
はにこ
80
ひとを魅了する侑九。それに翻弄される人々。守るために人を殺したり、世の中にだすために手段を選ばなかったり。そこまで熱中したことがないのでイマイチピンとこない。Qという存在は太陽というより人を飲み込んでしまうブラックホールのように感じた。めちゃめちゃ分厚い本だったけど、軽い感想しか持てなかったな。2024/02/17