内容説明
「俺は日本の船すべてに俺の発明した帆を掛けさせたい」。江戸後期、播州高砂の漁師から廻船問屋を営む海商にまで上り詰めた松右衛門は、千石船の弱点である帆の改良に取り組む。船が速くなれば、流通が盛んになり民の生活が潤(うるお)う。仕事とは世のため人のためにするもの――。松右衛門は試行錯誤の末、板のように強く羽のように軽い「松右衛門帆」を発明する。日本海運業の革命児を描く歴史長編。(解説・高島礼子)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kawa
35
江戸時代後期、兵庫県高砂出身で海商で成功、さらには革新的な船の帆の発明や蝦夷地の港湾工事で異能を発揮して活躍した工楽松右衛門を主人公とする歴史小説。司馬遼太郎氏「菜の花の沖」の主人公・高田屋嘉兵衛も松右衛門の後輩として登場。言わば「菜の花」の前史的作品で2人の浅からぬ縁の中での物語の展開が面白い。当時の武士階級の横暴ぶりとそこに対する両者のスタンスの違いが興味深く描かれる。2025/10/09
はちこう
20
「菜の花の沖」にも登場する工楽松右衛門の物語。作者には失礼ながら「菜の花~」のスピンオフ的な作品という気分で読ませていただいた。初読の作家だが、テンポが良く読み易い文章。五章では嘉兵衛の他、近藤重蔵も登場する。嘉兵衛は幕府に媚びを売る者で妬まれ役として描かれているが、改めて松右衛門の存在無しには嘉兵衛という人物は育たなかっただろうし、蝦夷地の開発だって進まなかっただろう。高島礼子さんの解説(超豪華!)も面白い内容だった。「菜の花~」とセットで読んで欲しい作品。2025/01/01
ゴルフ72
12
玉岡さん久しぶりの作品を読了!江戸時代帆船は諸国へ運ぶ重要な交通手段だった。そんな帆船ではあったが,帆自体が強靭でなかったため帆船事態の良さが十分に出ることはなかったため流通は時間を要していた。そんな時代、高砂の船乗り松右衛門さんが強靭な帆を木綿を基に発明する。幼少の時代から青年・壮年そして晩年にかけての彼のすべてが此処にある。心躍る壮大な彼の生涯が本の中で駆けぬける。心地よい余韻を感じながら・・・2023/12/24
kobumaki
11
工楽松右衛門という人物を初めて知った。千石船の帆布の改良を行い、帆が丈夫で扱いやすく劇的に船が速くなる。さらに土木船を作り蝦夷地の択捉や函館の湊を作っていく。広い視野と試行錯誤で道を切り開いていく人生。何より一番良かったのは、帆に関わる4人の女性達。帆布作りを通じて、人生の不幸な境遇を乗り越えて自立して行く様子が気持ちよかった。前半は、誰が主人公か分からず船も作らないので離脱しそうになったが、後半の船を作り始めた所から一気に面白くなっていった。2025/11/15
びぜんや
4
“松右衛門帆”で江戸時代の日本に海運革命を起こした男・工楽松右衛門を描いた歴史小説。時に物語の先、あるいは遠い将来を仄めかす語り口は評伝ぽくもありますし、湊々の女たちとのロマンスもまた読みどころ。しかしそれ以上に自らの才と工夫と力とで、この国を囲む海を駆け巡る男の海洋冒険小説という色彩が強く、心が躍ります。利を求めず、人のため、人に役立つために工夫を惜しまない松右衛門の生き方は痛快で、ヴォリュームたっぷりの一冊ながらもっともっと読みたいという気にさせてくれます。5つ星。★★★★★2024/10/03
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