内容説明
科学は戦争をやめさせることができるのか? 生物学者が迫る人間行動の謎!
人間は戦争や暴力のような「最悪の行動」と、協力や利他といった「最善の行動」のどちらも選択しうる。その善悪を分けるものは何か? 下巻では、〈我々〉と〈彼ら〉を区別するという態度や、集団の中の序列が形成される仕組みについて、霊長類学、社会心理学、文化人類学から行動経済学といった学問分野を横断して考える。集団どうしの間で起こる暴力、戦争という「最悪の行動」を避けるために科学にできることを探求する著者はどんな希望にたどり着くのか?
【内容】
第11章 〈我々〉対〈彼ら〉(霊長類学、社会心理学)
第12章 階層構造、服従、抵抗(社会心理学、内分泌学)
第13章 道徳性と正しい行動(道徳哲学、行動経済学)
第14章 人の痛みを感じ、人の痛みを理解し、人の痛みを和らげる(認知心理学、動物行動学)
第15章 象徴としての殺人(神経生物学、表彰文化論)
第16章 生物学、刑事司法制度、そして(ああ、もちろん)自由意志(生物学、社会心理学)
第17章 戦争と平和(心理学、霊長類学)
エピローグ
付録1 神経科学初級講座
付録2 内分泌学の基本
付録3 タンパク質の基礎
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くさてる
22
「なにがヒトを動かしているのか」突き詰めればそれだけのシンプルな問いへの答えは複雑だ。でも本当に面白い問いだった。人間と動物の共通点、違う点、善と悪のはざまにたつ人間、未来への希望だけでなく、過去にも築かれた人間性の証拠。読書としても面白かったけれど、こんな内容を学校で勉強したかったと思った。2024/03/16
あつお
11
人間行動の善悪を科学的に探る一冊。 本書は、人間の「善」と「悪」の行動がどのように生じるのかを多面的に分析する。①行動は、短期的な神経伝達物質の変化や中期的な学習、進化の過程による本能など、異なる時間軸の影響を受ける。②文化や社会的要因が善悪の基準を形成し、競争と協力のバランスが行動を左右する。③教育や社会制度の改善が、暴力の抑制や共感の促進に寄与する。本書は、単純な道徳的判断を超え、科学的視点で行動を再考する重要性を教えてくれる。2024/12/23
人生ゴルディアス
7
下巻の印象は倫理学。著者は自由意志に否定的で、脳科学の知識を次々に出されると確かに自由意思はないかのように感じるが、サラミ戦術ではとも思う。還元主義では創発性を捕えられなくないか? ただ、脳科学、遺伝学の進歩により、ある犯罪者のその犯罪は本人の意志ではどうしようもないことだったね、と(遺族はともかく)社会が考えるようになるのはさほど珍しくないことで、それが続くのならば今は急進的な考え(刑法の排除とか)も当たり前になるかも、みたいな挑戦的な論もあってよかった。2024/02/14
タキタカンセイ
4
〈我々〉はなぜ〈彼ら〉を殺すことをためらわないのか。〈我々〉と〈彼ら〉をわけるものは何か。その境界線は容易に変化する。私達は今、リアルタイムでその実例を目にしている(パレスチナで、ウクライナで、アメリカ大統領選で、近くはSNSで「ネトウヨ、ガー」「パヨク、ガー」と言ったり思ったりする時)。著者はそれをニューロンやホルモンのレベルから検証、考察する。そもそも「善」と「悪」とは何なのか。南アフリカのアパルトヘイトや真珠湾攻撃や第一次世界大戦やソンミ村虐殺事件における〈彼我〉の越境の事例が感動的。2024/03/20
aki
3
脳、遺伝子、ホルモン等が行動に与える影響を扱っていた上巻から一転、下巻は階層、道徳、共感、戦争と赦しといったテーマに沿って人の持つ生物学的特性が引き起こす行動と、それらがいかに環境、時代、宗教、国会等に左右されるかが論じられていて、タイトルが「善と悪の生物学」だったことにやっと納得がいった。自分の道徳上の過ちと他人の過ちを考えるときは使われる脳の回路がちがう、というのが印象的だった。2024/01/20