内容説明
神田神保町で「本の探偵」の広告を掲げて古書店を営む須藤の元に、蔵書家の医者から三十年近く前に失踪したある人物を探して欲しいという依頼が舞い込んだ。その名を森田一郎といい、戦後期に日本の文化復興に尽力すると称して、稀覯書といいつつその実わいせつ文書刊行に携わった結果、検挙されたあげく有罪となり、その後姿を消したという。左翼劇団の俳優や中国のスパイだったと噂される経歴を持つ謎の男を、須藤は古書を糸口として探索に乗り出すが……ロス・マクドナルド作品を彷彿とさせる傑作長編ミステリ。(『古本屋探偵の事件簿』分冊版)/解説=門井慶喜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yukaring
69
古本屋探偵の長編。神保町で「本の探偵」の広告を掲げて古書店を営む須藤の元に30年近く前に失踪した森田という男を探してほしいと依頼が入る。その森田一郎という男は様々な顔を持つ、とらえどころのない人物で更にはわいせつ文書を出版し、裁判で有罪判決を受けていた─。経歴不明、生死不明の男を古い本を頼りに追いかけていく所が古書業界ならでは。今回もディープな業界事情とマニアたちの奇人変人ぶりは健在。一匹狼の須藤が本の街をさすらいつつ、失踪人を追い続ける設定が少しハードボイルドっぽい印象の古書店ミステリだった。2023/10/26
シキモリ
24
復刻版<古本屋探偵の事件簿>シリーズ、分冊版の下巻。今作がシリーズ唯一の長編らしい。冒頭の案内文に『ロス・マクドナルドを彷彿とさせる傑作長編』とある通り、探偵役の須藤が関係者に聞き込みを繰り返し、徐々に真相へと肉薄する展開は正にハードボイルド黎明期の探偵小説を彷彿とする仕上がり。戦前から戦後にかけての【禁書本】を巡る時代背景を軸とした複雑な人間関係も本家以上に錯綜している。とある登場人物の独白で締め括る最終章には少々肩透かしを食らうものの、当時の出版業界を取り巻く過酷な状況を窺い知れる興味深い読書だった。2024/01/07
阿部義彦
23
今回創元推理より復刻された、紀田順一郎先生の古本屋探偵の事件簿シリーズ、唯一の長編です。戦後に発禁本を出版していたとされる謎の人物を巡る探査行。又それを頼んだ依頼主にも人に言えない秘密が有りました。色んないかがわしい人物が盛り沢山。そしてそこには男の悲しい性欲渦巻く伏魔殿でも有りました。古本探偵の須藤はその有能さが過ぎるが為に危うく生命まで落としそうになります。出版、装丁、販売、流通、本に関するあらゆる断片が濃いばかりに詰め込めれて、数奇な運命を遂げたある男の所在を解き明かします。圧巻。2024/01/01
佐倉
14
本の探偵・須藤が依頼を受けたのは30年前に失踪した森田一郎という人物の捜索。猥褻本の出版を行い数回逮捕され、あるいは偽札作りに関わっていた、大陸で諜報員をやっていたと様々な伝説を残しているようだが足取りが杳として知れない。愛書家、古書店、文学者、出版社と様々な伝を辿って真実にたどり着こうとしていく。活字や古本の当時失われつつあった(事実失われてしまった)文化のディテールが楽しい。猥褻本の扱いを通して出版物の価値、表現の自由が時代に大きく依存するものであるということが淡々とした展開に暗示されていると思う。2024/01/13
ツバサ
10
うーん。2023/10/19