内容説明
「核のある世界」への警鐘の書
1962年10月のキューバ・ミサイル危機は、核戦争(最終戦争)が一触即発で起きかねない13日間だった。本書はその「一触」が、実はほんの偶然の積み重ねで回避されていたことを明らかにした大作だ。米国の国家安全保障会議、国防総省、統合参謀本部の会議録、関係者の個人メモ、回想録、解禁されたソ連共産党幹部会の議事録など、豊富な史料を網羅して、米ソ両政権の内部とカリブ海の現場で何が起きていたかを立体的に描き出し、手に汗握る日々が展開される。ケネディとフルシチョフの関係、その言動や心理、タカ派とハト派の攻防を丹念に積み上げるミクロ的記述と、広島・長崎への原爆投下から冷戦下の核軍拡競争に至る文脈に、この危機を位置付ける俯瞰的視点を交差させており、圧倒的な説得力がある。
ロシアによるウクライナ軍事進攻、台湾をめぐる中国と日米の緊張を踏まえると、この危機がどこか重なって見えてくる。「核の脅威」が懸念される今、60年前の危機が残した教訓を振り返る意義は大きい。ピュリツァー賞受賞の歴史家(米外交と核管理・軍縮論)が、危機の深層を描き切った決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーくん
83
ウクライナ戦争が続く今、この本を読んでいると一抹の不安がよぎる。キューバにソ連の準中距離核ミサイルが持ち込まれ、設置作業が行われていることを察知した米国は海域封鎖(隔離)で応じる。世界を震撼させた13日間が始まる。国家安全保障会議執行委員会(エクスコム)の大勢は空爆+侵攻を主張するもケネディは交渉の余地がある策を選択。若い大統領を見くびり、ミサイルを持ちこませたフルシチョフは、核戦争に進みかねない事態の進行に狼狽する。シビリアン・コントロールは辛うじて保たれたが、米国の軍部は侵攻の選択肢を諦めない。 2023/01/26
オルレアンの聖たぬき
1
戦争が勃発するかしないかは、単に戦争を好む人々の決断というよりも、相手の思惑や考えを自身のイデオロギーから見誤ることで起こるのではないか。フルシチョフにしてもケネディにしても『そんなつもりはなかった』というそれぞれの結論に尽きる。この危機に際して本当に世界は救ったのはケネディでもフルシチョフでもない、歴史ではほぼ無名の人々が奔走した結果だったんだと初めて知った。2025/05/10