内容説明
教員七年目,松本サリン事件の現場から近い県下屈指の名門高に転勤した著者が生徒たちと模索した教育実践,歴史総合の授業を充実させるための作戦(方法)を経て,学習指導要領の内容とはかなり異なる授業プラン,「世界史の学び方一〇のテーゼ」まで.国民国家とは何かを掘り下げ,世界史とは何かを探究し,自分を磨く特別授業.
目次
はじめに
第1講 私たちの誰もが世界史を実践している
1 どうしても世界史を学びたかった経験
2 私たちの歴史実践と二つの世界史
第2講 世界史の主体的な学び方
1 歴史実践の六層構造
2 世界史という歴史実践の再検討
3 歴史対話の五つの方法
第3講 近代化と私たち
1 奴隷や女性を主語にした歴史叙述の試み
2 人種主義に着目して国民国家を再考する
第4講 国際秩序の変容や大衆化と私たち
1 不戦条約を世界史に位置付ける
2 戦争違法化の歴史から「問う私」を振り返る
第5講 グローバル化と私たち
1 二〇世紀後半の民族浄化と強制追放を見つめる
2 ガザ回廊から二一世紀の日本へ
まとめ 世界史の学び方一〇のテーゼ
おわりに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
94
この本は「歴史総合」(18世紀以降の歴史)という科目が高校教育課程に入ったことによって、岩波新書から3冊のシリーズとして出版された最後のものです。前2冊が高校生向けのような感じで書かれていたのに比べて、どちらかというと教える側の先生あるいは研究者向けにも書かれたのではないかと感じられました。歴史研究を含む人々の「歴史実践」には六層構造があるといわれていることからも明らかではないでしょうか。各章の参考文献が今後の学習の理解を深めていくのでしょう。2023/06/24
まえぞう
27
シリーズの締めは現役高校教師による歴史総合の学びかたの具体例です。仰ることは概ねそれであればよいねと思わせますが、日本全国の高校生にある程度レベルがそろった授業をできる先生を手配できるのだろうかという疑問を持ちます。必須科目である以上、どの学校で教えられる場合でもレベルを維持できないといけないのではと感じました。2023/08/16
BLACK無糖好き
21
全国の高校で新科目「歴史総合」が始まったことにより、世界史教育全般について主に教育者向けに書かれたもののようだ。世界史を学習することは、過去から現在までの様々な「叙述された歴史」を検討しながら、「私が叙述した歴史」(歴史認識)を相対化して練り上げていくいとなみだという。六層構造の歴史実践のプロセスとして体系的に提示している。具体的な授業プランの例もある、いいトレーニングになるかもしれないが、教育者にとっても些かハードルは高そう。本書からは多くの気づきも得られ、世界史への向き合い方を考えるいい機会になった。2024/03/13
ピオリーヌ
19
2023年の刊。著者は高校の世界史教員ながら『岩波講座世界歴史』2021年版の編に名を連ねた人物。西洋史学科でドイツ史を専攻した。オウム真理教事件の裁判では、麻原教祖や信者たちもまた世界史を探求していた。松本サリン事件の四ヶ月前の平成六年二月、麻原教祖は多くの弟子たちと中国に旅行をし、自らがその生まれ変わりと信じている朱元璋の足跡を辿っている。この旅行が教団の武装化に弾みをつけたと、土屋正美死刑囚は語っている。旅の途中、麻原彰晃は「私は日本の王になる」と引き連れた80人あまりの信者に宣言している。驚き。2025/03/19
ラウリスタ~
17
かつては高校教師の中に在野の研究者がいて…というのが学問の裾野、底力だったと思う。フランスでは国語教師(哲学)がその役割を担うが、日本では学問と教師があまりにも分断されてしまった。その点、歴史実践という試みにはその在野研究の可能性を感じる。穴埋め式の記憶ゲームではなく、歴史を現代の私たちに引き付けて考える。これが機能すれば大学での学びに繋がる。アヘン戦争を多面的に考える実践例など見事。戦争反対を繰り返す日教組的教条主義と、現実見ないとねという冷笑的「地政学」派とに単純に分断された世界を複雑化していく。2024/12/16




