内容説明
思想的対立を機に、夫である辻との関係は空疎になっていく。『青鞜』の出版も行き詰まる中で、大杉栄――異性の親友であり、共に闘う同志でもある男の存在が、日々大きくなっていくが……。吹き荒れる嵐のような日々、やがて訪れる束の間の炉辺の幸福……。生涯で三人の男と〈結婚〉、七人の子を産み、関東大震災後に憲兵隊の甘粕正彦らの手により虐殺された伊藤野枝。女として、アナキストとして、明治大正を駆け抜けた、短くも鮮烈な生涯を描き出す圧巻の評伝小説。第55回吉川英治文学賞受賞作。
目次
第十二章 女ふたり
第十三章 子棄て
第十四章 日蔭の茶屋にて
第十五章 自由あれ
第十六章 果たし状
第十七章 革命の歌
第十八章 婦人の反抗
第十九章 行方不明
第二十章 愛国
終章 終わらない夏
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
78
下巻は、ダブル不倫に四角関係に刃傷沙汰というドロドロの状況で始まる。自由恋愛論は得手勝手な理屈にしか思えない。だが、野枝と大杉のくらしが始まってからは、穏やかとはとても言えないが不思議な安定感が漂う。尾行にあれこれ頼んでるあたりも微笑ましく。パートナー・家族・同志にして友人。飛び回る大杉に対し、地に足のついた思想を育くむ野枝。尋常でない生命力と方向性が合致しともに戦う、互いに唯一無二の存在として歩む二人には、覚悟はあっただろうが。何故幼い子まで。この後の暗い時代の先触れのよう。わかってはいても結末は辛い。2023/10/21
mocha
62
とてもドラマチックで良い読書時間だった。日本近代史にはこれまで関心がなかったけれど、アナーキスト達の群像劇としても面白く興味深かった。それぞれの人物が一人称で語る心の内、その葛藤が伝わってくる。解説にもあるように、評伝ではこうはいかないだろう。女性の自由と自立を叫んでいた野枝が、結局は夫を支え愛に生きた姿にも矛盾を感じなかった。ラストはもちろんわかってはいたけれど、あまりにも理不尽でつらい。2023/09/18
のびすけ
27
下巻は、自由恋愛を標榜する大杉栄をめぐる男女関係のゴタゴタと、栄の思想家としての活動が中心。栄たち思想家と政府の対立の中で犠牲になった野枝。強い信念を持ち、全力で駆け抜けた野枝の生涯に胸が震えた。パートナーとして栄の思想活動を支えた一方で、野枝自身の社会的な功績についてももう少しスポットを当ててほしかったかな。それとも、この野枝の生き様そのものが一番の功績だったのかな。2024/02/18
どぶねずみ
26
今年が女性活動家、伊藤野枝の没後100年にあたるらしい。彼女に関する本は2作目だが、私はなかなか彼女の生き方に共感できない。現代よりも生きづらい世だったのは確かだが、自分の主張を強めて生きたばかりに非業の死を遂げることになってしまったではないか。もちろん、十人十色なので否定するつもりはないけど、協調性も大事なんだって気づいていなかったのかな? きっと女性個人としては魅力的な方だったんだろうけど、なかなか女性活動家ってピンとこなくて理解しがたい。2024/09/04
小夜風
18
【所蔵】読んでいる途中で劇場公開が決まり驚いた。総合で放送してほしかったのだけど劇場に行かないと観れないのかな。下巻は昼ドラかってくらいドロドロに始まったので、村山さんだし官能小説みたいになったらどうしようと心配だったが杞憂に終わりホッとした。最初大杉栄がただのクズ男にしか思えなくてなかなか感情移入出来なかったし、アナキストや社会主義思想云々とか言われても何をした人たちなのかいまいち曖昧でピンとこなかったので、後半判り易く書かれていて自分にも何となく理解出来たように思う。野枝は生まれるのが50年早過ぎた。2023/11/01




