内容説明
明治28年、福岡県今宿に生まれた伊藤野枝は、貧しく不自由な生活から抜け出そうともがいていた。「絶対、このままで終わらん。絶対に!」野心を胸に、叔父を頼って上京した野枝は、上野高等女学校に編入。教師の辻潤との出会いをきっかけに、運命が大きく動き出す。その短くも熱情にあふれた人生が、野枝自身、そして二番目の夫でダダイストの辻潤、三番目の夫でかけがえのない同志・大杉栄、野枝を『青鞜』に招き入れた平塚らいてう、四角関係の果てに大杉を刺した神近市子らの眼差しを通して、鮮やかによみがえる。著者渾身の評伝小説!! 第55回吉川英治文学賞受賞作。
目次
序章 天地無情
第一章 野心
第二章 突破口
第三章 初恋
第四章 見えない檻
第五章 出奔
第六章 窮鳥
第七章 山、動く
第八章 動揺
第九章 眼の男
第十章 義憤
第十一章 裏切り
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
88
熱い。手の中で本が暴れてる。押さえつけても押さえつけても、大地を割るマグマのように溢れ出すエネルギーは誰にも止められない。伊藤野枝。激しすぎる。明治後期から大正期、しがらみも道徳も常識も蹴散らし、駆け抜けた。彼女を葬った人々は、これから彼女が起こしたはずの風に怯えたのだろうか。上巻は大杉との出会いまで。引き込まれ一気に読めるはずが、彼女の熱に気圧され、なかなか読み進められない。結末はわかってるから辛い。でも追いかけて行こう、最後まで。感想下巻で改めて。2023/10/11
mocha
59
縁の地に住まいながら伊藤野枝氏のことを何も知らなかった。身の内に火の玉を持ち、逆風に抗い続けた短い生涯。満ち足りた現代に安穏と暮らす身では、ただただ凄いと思うばかりだ。上巻終盤に登場する神近市子の出生の地もまた、身近な片田舎だ。当時東京はうんと遠かったはず。彼女達の意志の力と行動力に驚嘆する。そして彼女達をそうまで惹きつけた大杉栄という人物についてもっと知りたくなった。ドロドロの五角関係を追いかけて下巻へ。2023/09/15
どぶねずみ
40
以前に『村に火をつけ、白痴になれ』で初めて伊藤野枝のことを知った。本書はNHKドラマおよび映画の原作として、さらに伊藤野枝を深く知ることができる。以前はそれほど興味があったわけではないが、今なら尊敬できる人物だ。100年前から女性が女性らしく生きるための主張をされてきた方。納得できないことをなんとなく終わりにしない。これが我が儘なのか、ごもっともなことだと考えるかは人それぞれだが、私自身が上品な上流階級で育ったわけではないので、親近感を感じる。彼女の人生の結末を知っているだけに、読み終えて溜め息が溢れる。2024/06/14
のびすけ
24
女性開放運動家、伊藤野枝の生涯。まだ女性の生き方に制約の多かった世の中。野枝の中に渦巻く情熱。辻潤、平塚らいてう、大杉栄との出会い。下巻へ。2024/02/15
ふみ
18
最期を知っているヒロインの小説は読むのが辛いだろうな、と思ったがなかなかどうしておもしろい。伊藤野枝という人が思想家活動家というより生身の女として描かれていてよき。しかも男次第で変容するのが印象深い。また出てくる男が皆ダメ男というのもなんと申してよいのやら。やや古風に感じる文体は野上弥生子を思い出しました。2024/09/03