内容説明
50年ぶりに湖の封印が解かれるとき、追放された悲劇の皇后の伝説が幕を開ける――。歴史収集の旅をする聖職者チーは、ある時立ち寄った湖のほとりで、ひとりの老女に出会う。亡き皇后の侍女だという彼女に導かれ、チーは皇后が幽閉されていた屋敷を訪れる。そこで老女は思い出の品々を手に語り始める。美しく残酷な真実と運命の物語を……。「あの方には異国風の美しさがあり、それはあたかも私たちには読めない言語のようだった。肩まで垂れた長い二本の三つ編みは墨汁のように黒く、顔は皿のように平らで、完璧に近い円形だった」――著者デビュー作にして2021年ヒューゴー賞受賞作。全2篇。
目次
塩と運命の皇后
虎が山から下りるとき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さつき
77
表題作と「虎が山から下りるとき」の2作が所収。どちらも語り手と聞き手がいて物語る形式。1話目は50年ぶりに封印が解かれた湖とかつて皇后が幽閉された屋敷で謎めいた老女の語る思い出。2話目は3匹の虎に囲まれた絶対絶命の状況で、虎の気を逸らせ時間をかせぐために語られる婚姻譚。1話目の哀切さも心に残るけど、叙事詩のような昔話のような2話目が特に好み。余韻に浸りながら2度3度読み返しました。2022/11/20
sin
74
スタイリッシュなラノベ?重層的に造り上げられた世界観を背景に物語の断片が語られる。そのため構築した世界を先ず描写して物語に導いてゆくより興味を引きやすく、馴染みの無い世界観を苦手とする日本人には取っつきがよさそうだ『塩と運命の皇后』。アジア一帯に伝わる人虎伝説が下地か?アラビアンナイトのように命を賭けたそのうえ尊大なマンイーター相手の緊迫感溢れる一夜の語り『虎が山から下りるとき』。聖職者チーの役割は真実を聞き取り記録すること、この世界の歴史の知られざる一面はまだ語り尽くされてはいないようだ。2022/10/05
優希
58
独特の空気感があるファンタジーでした。美しくて残酷な世界。想像力が圧倒的に襲ってくるせいか、重みを感じます。2022/11/10
pohcho
53
歴史収集の旅をする聖職者チーと歴史を記憶する鳥のオールモスト・ブリリアント。チーは立ち寄った湖の畔で一人の老女に出会う。亡き皇后の侍女だという彼女は、かつて皇后が軟禁されていた屋敷で、思い出の品を手に語り始めるのだった。北の国からやってきた孤独な皇后と侍女ラビットの秘められた運命を描いた「塩と運命の皇后」。もう一編は女学生に恋した雌虎の物語。ベトナム系米国人作家によるアジアンファンタジー。独特の世界観がとても魅力的。2022/10/25
藤月はな(灯れ松明の火)
45
歴史を聞き取り、記録する聖職者チーが書き写した、語られない歴史たち。表題作は祖国を滅ぼし、側室として召し抱えるも蔑ろにした帝とその国へ静かに復讐を遂げた女帝の執念に惚れ惚れするしかない。そんな苛烈な彼女は自分が心を赦した者の一番、大切な人の幸いをも勝ち取った胆力にも。「虎が山から下りる時」は美しくも誇り高き虎の女王に食べられぬように怯えながらも言葉を纏い、翻弄する女学生。しかし、虎は時に小五月蠅い食事である筈の女学生に次第に恋心を抱くようになっていた。女学生の心は如何だったのか。表紙が鯨庭さんなのが嬉しい2022/12/23
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