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内容説明
パンデミックに深く影響を受けたのはカミュの『ペスト』だけではない。ペスト、コレラ、結核、エイズ――紀元前の古代ギリシアの時代から現代にいたるまで、文学者や哲学者がいかに感染症=病のイメージを自らの思考に取り入れてきたか。病とは人にとって何なのか。病気とともに生きてきた人間の一側面を、文芸批評家の著者が圧倒的な知識と手際で鮮やかに切り取る病の文化史。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
105
人類は疫病と戦争に長く苦しみ、多くの死者を生んできた。当然、双方についての文学も書かれたが、戦争文学に比べ疾病が主題の作品はあまり論じられてこなかった理由を本書は説明する。特にパンデミックは戦争に比べ起承転結や勝敗がはっきりせず、その平等性故に社会への影響が広く深く、人為的に終わらせるのが難しい。しかも戦争で武器を取って人を殺せても、自分の体内にワクチンを注入して病原菌やウイルスを殺すのをためらう。こうした手の付けられなさや矛盾した心情を、人は言葉で表現できない。「言葉への信頼」こそ病への対抗手段なのだ。2022/04/15
キムチ
56
高邁な命題を展開する割には新書版の為か、語り口の明快さが心地よい。筆者と共に古代から現代へとタイムマシンに乗って人体の迷宮をジグザグながら、滑走できた。キリストも釈迦も空海もアラーも治癒神、しかもセラピストだった。戦争と文学は融合し易く作品は幾つか読んできた。疾病医学はカミュを初めとし読んできた積り。更にてんこ盛り程トリビアが供された。汗牛充棟・・2回以上登場したこの語、筆者が好みかな。パンデミック・エピデミック・エンデミックの住み分けが理解できただけでも益アリ。このテーマなら「ベニスに死す」が一押し2022/05/12
ころこ
50
専門的な論点を実証的に掘り下げる新書の傾向に対して、大家の書いた総合的な知識の見通しをつける新書のタイプは古くからあります。検索技術の向上により容易になったとはいえ本書は後者のタイプです。このタイプの特徴は一般向けの平易さですが、本書も言葉遣いが柔らかく、平易で読み易いと思います。前半は哲学史で後半は文学史ですが、スーザン・ソンタグの様な文学批評を哲学だと解釈するならば、本書は感染症をはじめとする「病」を哲学的な人文知がどの様にかんがえてきたかの総合的な本になっています。非常に優れていると思います。人文学2022/04/24
活字スキー
22
文学部卒の文芸批評家さんによる、感染症を軸にした哲学史及び文学史。その原因も仕組みも分からなかった古代から、物流やネットワークが発達したからこそ猛威を振るうようになった近現代に至るまで、人の営みには常に病がつきまとってきた。でもそれは仏教的観点に立てば命とは生老病死を巡るものだから、必然にして普遍的なことでもあるのだけれど。本書はそれなりに学ぶところはあったものの、引き合いに出されるのがいわゆる古典に寄っていたので個人的には刺さる部分は少なかったかな……。2022/06/13
かんがく
11
「病」や「医」を哲学と文学がどのように捉え、影響を受けてきたかという歴史。話はあちこちに飛びながら深い分析を重ねていくためなかなか難しいが、終章でのコロナに対する言及で全容をつかむことができた。2023/07/22