内容説明
法隆寺や姫路城はじめ、日本には世界遺産に指定された歴史的建造物が多い。だが、「役割を終えた古い建物」でしかなかったそれらに価値や魅力が「発見」されたのは、実は近代以降のことである。そして、保存や復元、再現にあたっては、その建造物の「正しい」あり方が問われた。歴史上何度も改築された法隆寺、コンクリート構造の大阪城天守閣、東京駅、首里城……。明治時代から現代に至る美の発見のプロセスをたどる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
74
本書を読むと、古い建造物を保存しておこうという現代のわたしたちが一般的に持っている概念が、ごく最近つくられたものだとわかる。神社仏閣もさることながら、姫路城の天守などはなんと競売にかけられ、破壊寸前になった過去もあったとか。さまざまな例が図版つきで掲載されているので、建築や歴史に興味がある読者におすすめの一冊。2021/04/07
六点
22
福崎にある「三木家住宅」が町へ移管される前に訪れたことがある。先代の御当主から、維持管理の苦労を営々と聞かされた。壁の漆喰は剥落が目立ち、個人の手には余るのであろうと推察された。建築物の古さに価値を見いだされた起源から始まり、保存、修理と活用、復元、そして建築物の点から面の保全へと、近代の日本の文化財保護史を通覧することができる。後半は法規制と建築物保全と言う他無いくらい、法律や条例の制定史となっている。それでも、近代和風住宅は保護が不十分なのである。建造物を残せというのは簡単だ、が、難しいのである。2021/03/04
アメヲトコ
11
2021年刊。日本における建築保存と活用の歴史をまとめた一冊です。東京藝大大学院などでの講義をもとにしているので、各時代における保存の考え方の変遷がコンパクトにわかりやすくまとまっています。また古美術の保存との違いについての解説も興味深いところ。2021/04/12
犬養三千代
9
奈良時代から明治時代までの建造物の修理、復元についての考察。 明治初期の神仏分離令や廃城令は痛い。そのなかであっても帝国大学の建築家や研究者の努力は評価できる。「時代」に翻弄された寺社、仏閣、廃城残ったものを大切にしていかねば。大工さんの技術の継承も重要だ。2023/01/12
不純文學交遊録
9
城郭や社寺を文化財として認識するのは近代以降、とりわけ明治以降の近代化や太平洋戦争による空襲で多くの建造物が失われた戦後だと思っていたが、江戸時代に建築を歴史的に評価する価値観が生まれていたのは意外だった。一方、廃仏毀釈が神仏分離令よりも前、江戸時代に始まっていたことに驚く。歴史的建造物を保存する際、現代の技術をどう採り入れるか、いつの時代の様式を再現するか、常に激しい議論が交わされてきた。答えは一つではない。自分たちの住む地域の実情に合わせて取捨選択する必要がある。大いに学ばせてもらった。2021/06/27
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