内容説明
『智恵子抄』に描かれない智恵子像――天才芸術家である高村光太郎の陰で、その秘められた才能を花咲かすことの出来なかった妻・智恵子。天真爛漫な少女時代、平塚らいてう等と親交を深める青春時代、光太郎との運命の出逢い、そして結婚、発病……。一心に生きた智恵子の愛と悲しみを余すことなく描いた、芸術選奨文部大臣賞受賞の傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KEI
34
高村智恵子さんのことは「智恵子抄」と、かつて見学した光太郎記念館ぐらいの知識しかありませんでした。本書の中には病前の芸術家、夫 光太郎を愛し、尊敬し、同志のように暮らした姿が伝わって来ます。著者の描く発病の経緯や智恵子の心情はリアルでした。光太郎の智恵子への深い愛情、哀しみが伝わります。再度「智恵子抄」を読みたくなりました。智恵子は病を得て、飛び、素晴らしい切り絵作品を遺したのですね。2017/03/14
UK
31
思春期に智恵子抄に心を突きさされた身としては、楽しみに、でも半ばこわごわ本を開く。智恵子像のイメージを壊されたくないものね。事実を踏まえた作品といっても、もちろん細部は創作になるが、智恵子抄の裏側もうまく描いているのではないかな。思い切った創作ではないので、安心して読める一方、若干食い足りない気もする。でもこのくらいがちょうどいいのかもしれない。智恵子抄が凄すぎるからね。 2016/09/17
紅香
24
高村光太郎と智恵子の出会いから別れまで。今でこそ『道程』『智恵子抄』で有名な高村夫妻。往々にして芸術家は時代を超える感性のなせる技なのか、なかなか認められず、貧が付き纏う。こんな運命の2人が辛かった。今、生きていたら、上手く生きられたのにと思いながら、果たしてこの空くことの無い作品欲は狂気は生まれるのかと思うとそうでもないように思う。いつも後世の者が咀嚼し、あたかも理解したかのように吟味する。死して伸びる種子のように文学は、芸術は時を熟して花を咲かせる生き物のよう。今も智恵子みたいな種子が其処彼処に。。2022/04/03
kaoriction@感想&本読みやや復活傾向
18
【再読】雨上がりの夜空を見上げてさみしくなる。智恵子にはこの空が見えなかったのか、と。流れる雲の隙間にオリオン座だって見えるのに。智恵子にとってこの東京の空は 空ぢゃなかったのか、と。何度読んでいるのか…個人的殿堂入り作品。読む度に新たな発見。「「わたし、もうじき駄目になる」光太郎の大きな軀にすがりつきながら、智恵子は、慟哭した。」智恵子は自分がだめになるとわかっていたんだった。肉体と魂のぶつかり合い。言葉じゃない言葉が見える。せつなく苦しい。いつか智恵子の阿多多羅山の青い空を見てみたい。あどけない空を。2019/03/02
kaoriction@感想&本読みやや復活傾向
17
智恵子を扱う小説は数あれど、この作品がやっぱり一番好きだ。智恵子が光太郎を思う気持ち、行動に、再読なのにドキドキ、胸が締め付けられる思い。「いやなんです あなたがいってしまふのが」の詩には鳥肌が立った。そして、泣いた。 思えば、この作品によって私は「青鞜」と平塚らいてうに興味を持った。なぜか冒頭の、自転車で校庭を走り回る智恵子の描写と、明子(らいてう)とのテニスシーンが脳裏に焼き付いていて、青鞜のことを思う時、このシーンが浮かぶ。色んな思いがあって、この作品は本当に私にとって大切な一冊。語り尽くせない。2012/10/28