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内容説明
1889年に公布され、敗戦後にいたるまで国家の基本法としてこの国のかたちを規定した大日本帝国憲法(明治憲法)。民意の支えにより政党が力を獲得することを警戒した藩閥勢力の手になるこの憲法は、天皇大権が強く、議会権限の弱いものであった。そうした法の特質が、無謀な戦争の回避を困難にしたとして批判される。だが他方、この明治憲法体制のもとで、戦後憲法の時代にも劣らぬデモクラシーの実践がさまざまに花開いたことも事実だ。私たちはいま、明治憲法の時代をどう再評価すべきか。近代日本の歩みを根本からよみなおす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
61
著者の訃報に接し急いで読んだ。この著者からは明治~昭和初期について多くのことを学んだが、本書も例に漏れずたくさんの示唆を与えてくれた。特に美濃部達吉に関する論考は、天皇機関説に限らず彼の変節にも及んでおり、その複眼的な評価には目から鱗が落ちる思い。また明治憲法下で発展してきた戦前の自由と民主主義が、1937年の日中戦争という大きな衝撃で、その民意が方向性を失い、音を立てて崩れる様が目に浮かぶようだ。「戦後レジームの脱却」を揶揄しながら明治憲法の再評価をする著者には、最期に当たり現状が如何に映っただろうか。2020/10/25
巨峰
48
明治憲法そのものを法律的に語る以上に明治憲法を軸に据えた政治史であった。個人的に教科書的に明治憲法を天皇主権、欽定憲法と決め付けるのは、とても違和感があったので、このようにがっつりと述べられた本を読むことができて大変良かったです。2022/03/18
パトラッシュ
43
明治憲法は敗戦を招いた諸悪の根源扱いされ、まともな研究書も少ない。そうした欠点を指摘しながらも当時の政治家や学者が様々な「解釈改憲」を重ね、デモクラシーを実現しようと懸命に努力していた実態を初めて知った。結局この憲法の最大の問題は、軍事外交の大権が与えられた天皇が専制君主の権力は振るえないという矛盾を放置したことに尽きる。大日本帝国は制憲時から責任者不在の体制であり、その矛盾を合目的な政治判断で縫い合わせていた元老がいなくなると最大の暴力集団である軍が暴走するのは必然だった。悲しき憲法の歴史というべきか。2020/11/02
てつのすけ
32
明治憲法(大日本帝国憲法)の時代は、前近代的であると思っていた。しかし、本書を読み、明治憲法下の我が国は、現在よりも進歩的な社会であったのではないかと感じた。また、最後に述べられているが、我々が戦前と読んでいる時代は、戦前と戦中に分けて考えなければならないであろう。こう分類することで、戦前の我が国が民主的な国であったと感じることが多々垣間見ることができる。日本国憲法だけではなく、明治憲法を深く知りたいと思えた一冊だった。2021/06/06
Francis
16
昨年亡くなられた日本近代史研究者坂野潤治先生の事実上の遺作。先生のこれまでの研究を踏まえつつ、大日本帝国憲法下での日本の議会制民主主義の歩みをたどる。帝国憲法で政党政治を想定していなかったにもかかわらず、政党側は議会の予算協賛権を盾に取り政党政治を実現させていく過程や、統帥権干犯問題、天皇機関説事件の考察など、大変参考になる内容だった。コロナ禍の中、議会政治が沈滞する中で行われる今回の総選挙の有様を見たら坂野先生はどう思われるだろうか。2021/10/23