内容説明
作家になることは悪人になることだ。生きることで他人を傷つけ、小説を書くことで自らをも痛めつけてゆく。すさまじい作家が、己の精神を追い込み、崩壊していく様を曝した、最後の私小説――「靴と下駄とスリッパが空中を飛んでいるんだ。ほら、そこに。」「くうちゃん、何言ってるの。何も飛んでいないじゃない。」「いや。飛んでいるんだ。階段も廊下も流れているし。」「変ねェ。何も流れていないじゃない。いつもの通りじゃない。」「ああ、俺は気が狂った。アロエの毒を呑まされた。」「誰に。」「誰だか分からない。俺の頭の中を風が吹いていくんだ。」「風?」(本文より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クリママ
47
表題作含む4編の短編集。ほとんどが私小説か。「飆風」芥川賞を逃したことがきっかけで、脅迫神経症を病んでいく。その過程があからさまに綴られ、その描写には鬼気迫るものがある。が、賞を目指して小説を書くことと、出世や金銭を目的として会社勤めをすることに、どんな違いがあるのだろう。前者を求めるあまり病み、後者を否定する心情はわからない。その最中に直木賞を取るために書かれた「赤目四十八瀧心中未遂」、ううむ…2022/04/01
ウメ
8
近ごろハマりにハマっている車谷氏。乱読はしばし続く模様。辛辣に人間を描く一方で、愛妻順子はんとの情感あふるる夫婦生活も見せてくれる。自分にもある人の業を自覚させられ気分は沈むが、それでも読まずにいられない。2013/08/22
金平糖
3
B。2018/03/14
姫草ユリ子
2
ただの短編集かと思いきや、途中からは回顧録(?)に。手洗いする事が止められず、どんどん強迫神経症になっていく過程がかなりリアルに書かれています。小説を書いていたから病気になったのか、病気になったから小説家として大成したのか、謎ですね。彼の他の作品は読んだことなかったのですが、ちょっと興味が出てきました。2014/01/05
星辺気楽
2
「飆風」こんな字を初めて見ました。つむじ風のことなんですね。直木賞をとるような小説家はやはり常人には理解し得ないような世界にいるみたい。JUNKOさんの苦労が目に見えそうです。2013/09/12