内容説明
香港・マカオに別れを告げてバンコクへと飛んだものの、どこをどう歩いても、バンコクの街も人々も、なぜか自分の中に響いてこない。〈私〉は香港で感じたあの熱気を期待しながら、鉄道でマレー半島を南下し、一路シンガポールへと向かった。途中、ペナンで娼婦の館に滞在し、女たちの屈託のない陽気さに巻き込まれたり、シンガポールの街をぶらつくうちに〈私〉はやっと気がつくのだった――。「あの旅をめぐるエッセイII コロッケと豆腐と人魚」が新たに追加された【増補新版】。※本電子書籍は、令和二年七月発行の新潮文庫(新版)を底本としています。高倉健氏との対談「死に場所を見つける」は収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
234
事ある毎にお金のはなしが出てくる。無理もない。いつたどり着くとも知れない長旅だ。節約するのは当然である。とはいえ物価は安い。何も持たぬ若者でも、何とかやっていけるくらいには。かつて我々は出かけていく側だった。それがいまはどうか。この国へやってくる若者のほうが、ずっと多いのではないか。人生は旅と似ている。目的地の見えない、いつ終わるとも知れぬ長旅だ。お金だっていくらかかるかわからない。だから節約する。外を見に出かけていく余裕なんてないのだ。いまや私たちの国は、自由を選択する自由さえ失いつつある。⇒2020/09/17
ALATA
96
「息をのむ美しさだった。これがタイという国なのだろうか…」初めて見る風景に懐かしさを感じる瞬間がある。これはデジャブの様な感覚でいつも思い描いていた心象を求めているんだろう。沢木さんの貪欲な好奇心が素晴らしい。見知らぬ土地で不安に苛まれる。執拗な女の売り込み、ノーサンキュウーの嵐、下卑た笑いに途方に暮れる★4※それにしても異国の女性と子供はたくましい。ちょっと見習わないとな。※※巻末の高倉健さんとの対談、一番好きな土地はハワイにクスッ。2024/11/28
Lara
69
1巻目、香港、マカオ編では、活気、元気が溢れていたが、2巻目、タイ、マレーシア、シンガポール編では、気持ちがトーンダウンしてしまった感がある。どこも旅の本、ガイドブックには出て来ない場所、出来事、出会い。このような旅行記を読むと、無計画、事前情報無しで旅する事の面白さは、若い時にしか出来ないかなとも思った。2024/11/19
あきぽん
68
新潮文庫の100冊2020より。娼館にも泊まる予定のない旅。汗や街の臭いが伝わってくる素晴らしい文章で、アジアの奥深くへ脳内をいざなっていくれる。惜しむらくは古いこと、でも巻末の高倉健との対談も面白い。2020/09/05
アイシャ
46
マレー半島、シンガポール編。香港での心の沸き立つような体験を胸に、沢木さんが次に選んだのはバンコク。ここから南下していくのだが、ペナンの売春宿での女性たちやそのヒモの男性たちとの交流を除くと、あまりワクワクするような感じがない。どこをどう歩いても、ここだと思う場所にぶつからない。旅に少しずつ退屈していく。そしてカルカッタに向かおうと決める。巻末の高倉健氏との対談が素晴らしかった。もう40年も前のものだが、スターの健さんがここまで深い話をするとは沢木さんへの信頼からだろう。2024/02/18