内容説明
ロシアはなぜクリミアに侵攻したのか。
法の支配を無効化し、民主主義を混乱に陥れ、歴史を葬り去る「永遠の政治」。プーチンによる「永遠」の体制は、純潔無垢なるロシアの復活を唱え、EUの破壊を画策し、遂にはウクライナの混乱に乗じてクリミアを併合する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
75
イヴァン・イリイン(1863~1954)というファシスト的歴史家がプーチンにとっての権威だと言う。取り巻き達はロシアの無垢さが頽廃的な西側に汚されることを説いたイリインの思想を現代メディアの世界に適応させ、プーチンを権力の座に就け、彼はロシアをオリガルヒとしての自身のクランのための場とした。こうした経緯を読むと現在のロシアのウクライナを巡る動きが手に取るようにわかる。プーチンにとってウクライナは「ロシアという無垢な体の切り離せない一部」だという。本書の後半には2014年のマイダン革命の動乱が描かれるが→2022/03/18
syaori
70
政治には進歩と破滅の神話があると作者は言う。前者は人類は良い方向へ進み続けるというもの。それが挫折したときに始まるのが、敵を「でっちあげ」偉大な自国の危機と犠牲の物語を語る破滅の神話。本書は現在世界を覆うこれらの「神話をいくらかでも払拭」し世界をどう維持し改善するかを問い続けるために、11~16年の欧米の歴史を追ってゆきます。本巻では14年のクリミア併合までを辿りながら、「反ロシア」を「ファシスト」と呼ぶロシアの世界観の起源や、それに対するEUの、進歩の神話を信じるがゆえの脆弱性などが語られます。下巻へ。2023/03/24
天の川
59
抽象的な概念を理解できたか自信がない…。健全な国家のしくみである継承原理として民主主義があり、その継承原理がなかったソ連は存続できなかった。新たに誕生したロシアでプーチンが目指したのは「永遠の政治」。ロシアを汚れなきユーラシア帝国として復活させるため、アメリカやEUからの危機をでっちあげ、無垢なるロシアの優越性をセクシュアリティや文化の観点から定義した(のだと思う)。私的にはファシズムの権化のように見えるプーチンが「非ナチ化」をウクライナに求めるのが不思議だったが、⇒2022/03/31
風に吹かれて
22
大統領ヤヌコーヴィッチがEUとの連合協定に署名しなかったことに端を発してEU加入に期待していたウクライナの国民はデモを始めた。国内争乱に乗じてプーチンは所属を示すものを一切付けず国籍不明に見える軍隊を投入。ウクライナは内乱状態なのであり、軍隊は送っていないとロシアは宣伝し続けた。戦闘で死亡した家族を連れ帰りロシアで埋葬しようとするとロシアは軍を出していないのだからロシア兵は存在しない、ロシア兵というデマを言い続けるのであれば罰すると家族は脅された。事実は認めず作り話を流布するのがロシアの権力者だ。➡2021/04/05
ブラックジャケット
14
世の中の変化の潮流が激しすぎて、尻がもぞもぞと落ち着くことがない今日この頃。トランプに引っかき回された跡は痛々しい。その出現の立役者でもあるプーチンの考察は待ったなしの緊急性がある。ソ連崩壊、ロシアの復活からユーラシアの新たな覇権の主へ。ロシアの富は限られた富裕層のみに偏り、プーチンとともに寡頭政治でこの大国を牛耳る。ウクライナを飲み込んだ不気味な転身は、新しい時代のファシズムの到来を示した。マレーシアの旅客機まで被害を受けた戦争が、なし崩し的にロシア色に染められる不思議さ。EU・西側諸国の憂色は濃い。 2020/03/02