内容説明
「君を殺す」――復讐の誓いと訣別から半世紀。政治家となったソリヤは、理想とする〈ゲームの王国〉を実現すべく最高権力を目指す。一方のムイタックは渇望を遂げるため、脳波を用いたゲーム《チャンドゥク》の開発を進めていた。過去の物語に呪縛されながら、光ある未来を乞い願って彷徨うソリヤとムイタックがゲームの終わりに手にしたものとは……。 第38回日本SF大賞&第31回山本周五郎賞受賞作品
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
481
第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞の受賞作。この2つの賞のW受賞は珍しいと思う。SFマガジン編集長の塩澤快浩氏などは「“伊藤計劃以後”という時代は本作の刊行によって幕を閉じる。」とまで大絶賛。読書メーターの人たちの評価も概ねひじょうに高い。だが、あえて言う。まず本書は良くも悪くも同人誌的な構想、文体である。アマチュアっぽさは上巻でも感じたが、会話文がとりわけ稚拙である。人物造型もそれこそゲームの主人公のようだ。時として饒舌に過ぎ、作品の流れを阻害する。この面白さとははたして小説としてのそれか?2021/01/14
W-G
322
物語全体の筋は一旦脇に置いて、会話の応酬が増え、そこは楽しめた。この手の群像劇は、最終的に各人のパートがどれだけテーマに沿って有機的に結合しているかが明暗を分けると思っている。その観点では、キャラが使い捨てになっていたり、存在意義を見出だせないままに話を畳まれてしまった設定・人物か多すぎると感じた。何かの暗喩のような禅問答じみた会話も、その解釈を読者に委ね過ぎていて、逆に奥行きのなさを印象づけてしまったかも。最終的にはラディーをどういう位置付けで描きたかったのか不明瞭なのが一番の不満。2023/04/26
chiru
142
下巻は、ポル・ポト政権が終わり、主人公達が大人になった2023年のSF編。タイトルの『ゲーム』の概念を、ソリヤは理想とする王国の実現、ムイタックは完全なゲームの実現とする。物語の中心がなぜ『ゲーム』かというと、支配者が次々に入れ変わる『戦争』が、でたらめなゲームのようだから。そしてもうひとつの鍵である『物語』。人は愛する人の記憶に残りたいと望み、記憶で編んだ物語の続きを望む。白いページに『未来』と『希望』を記すために…。ふたりの最後の邂逅は、どの物語よりも胸を締め付ける、切ないラブストーリーでした✨★5↑2020/05/03
KAZOO
135
小川さんのSF大賞を受賞した作品ということで読んでいたのですが、上巻ではまるっきり異なり東南アジアの国の歴史を読んでいるような感じでした。ただ若干様々な才能を持っている人物などが出てきてということが少しSF的な感じを受けました。下巻ではかなり近未来的なシチュエーションでゲーム的な世界が出てきたりします。ただ新しい人物がどんどん出てきてそれを確認するのに手間がかかったりしました。小川さんの長編の本は興に乗るといいのでしょうが(例えば「地図と拳」)このような感じだと読むのに時間がかかってしまいました。2023/10/17
『よ♪』
92
これはスゴい!新感覚。未体験ゾーンだ。上巻ではカンボジア内戦を背景とした歴史小説さながらの展開に興奮したが、下巻は打って変わり政治サスペンスと見紛うようなハラハラドキドキの連続。読手の予想を悉く裏切り、全くあさっての方向へ向かうのだが、それが面白いから目が離せない。ポル・ポトの隠し子ソリヤは政治家になり首相を目指す。"神童"ムイタックは脳波の研究者になりゲーム開発も手掛ける。政権は疾うに交代。それでも今なお続く汚職と格差社会。人生という"ゲーム"とそれを楽しむ"ルール"。二人はただそれだけを追い求め──。2020/03/03