内容説明
「それは人間であることとなんの関係があるのか。」フランス・ルネサンス文学の泰斗が、宗教改革をはじめさまざまな価値の転換に翻弄されながらも、その思想を貫いたユマニスト(ヒューマニスト)たち――エラスムス、ラブレー、モンテーニュらを通して、「人間らしく生きようとする心根と、そのために必要な、時代を見透す眼をもつこと」の尊さを平易な文章で伝える名著。●大江健三郎氏による、本書の底本(講談社現代新書版、1973年)への推薦の言葉より〈この平易な小冊子にこめられているのは、先生が生涯深められてきた思想である。「人類は所詮滅びるものかもしれない。しかし、抵抗しながら滅びよう。」という言葉を見つめながら、先生はその抵抗の根本の力を明らかにしてゆかれる。〉 【目次】 1 ヒューマニズムということば2 ユマニスムの発生3 宗教改革とユマニスム4 ラブレーとカルヴァン(一)5 ラブレーとカルヴァン(二)6 ユマニスムとカルヴィニスム7 宗教戦争とモンテーニュ8 新大陸発見とモンテーニュ9 現代人とユマニスム
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
104
フランス古典文学の泰斗である著者のヒューマニズムに関する思想の開陳。ヒューマニズム(ユマニスム)とは、がんじがらめのキリスト教教義解釈論で機能不全に陥ったローマ教会の教義を「人間であること」に戻そうとした必然の動きであった、というのが彼の考え方。ラブレー、カルヴァン、モンテーニュを並べて比較し、カルヴァンが教条的になってしまったとは言え、目指す目的は同じだったとする。その考え方は今日の「人間を忘れた」国同士の争いにも当てはまる。彼の「ヒューマニズム」は没後半世紀を経てますます輝いている。2024/04/13
ステビア
26
ラブレーとモンテーニュ。「ユマニスムは、別に体系をもった思想というようなぎょうぎょうしいものではけっしてなく、ごく平凡な人間らしい心がまえであるというのがわたしの考えです。」2024/01/06
ネムル
20
ルネサンス期の宗教改革のごたごたを中心にエラスムス-ラブレー-モンテーニュへと連なる、ユマニスムの地下水脈を辿る。いまの研究書ならより深く概説した本もありそうだが、ユマニスムが「歴史の流れを下る人間の「しりぬぐい」役を勤める」とした考察は、いかにもラブレー翻訳者らしい愉しさだ。そして、ユマニスムが身振りや態度、「ごく平凡な人間らしい心がまえ」とするのは、歴史の流れに踊らされない保守主義の考え方に近いのではないかと感じた。「です・ます」調の語りにのんびり学ぶ、小著にして良著。2020/01/21
buuupuuu
16
人為的に作られたものに人はたやすく絡め取られてしまう。そのようなあり様への批判的な眼差しが著者の理解するユマニスムということになるのだろう。このことが、ユマニスムと同じく旧体制の絶対性への批判から出発しながら、別の絶対性へと落ち込んでしまった宗教改革運動と対比されながら描かれる。この眼差しは宗教にだけ向けられるものはない。現代でもイデオロギーに起因する戦争だとか資本の運動によって引き起こされる環境破壊などが例に挙げられる。ユマニスムは懐疑論や相対論の見かけをとるが、根底には人間性への信頼があるようだ。2023/05/23
fseigojp
10
キリスト教の不寛容に対する相対主義2020/01/02