内容説明
瀬戸内の小さな漁村島での出来事だった。海ぎわにある流木小屋のなかで、従兄弟の山藤憲春は火につつまれた。なぜ、彼は爛死(らんし)せねばならなかったのか!? 二年後、「私」は茶室の設計を依頼された。そこで見せられた織部灯籠の来歴と、憲春の焼死事件とがからみ――(表題作)。魔が放つ、恐ろしくも妖しい美に惹きつけられる13作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
72
恐怖編と銘打たれているが、普通の恐怖小説にあるような超常現象としての恐怖はほぼ書かれていない。代わりにここにあるのは人の心が作りだす地獄。著者らしくどの登場人物も情念に己が身を焼かれて地獄に落ちていく。絶品は何と言っても「海贄考」。個人的には著者の作品の中でもベストというべき逸品で、心中から生き残った主人公とその後その身を襲う不穏な出来事という一見恐怖小説のフォーマットに沿った造りながら、著者の解説で一気にそれが地獄へと変貌する様は見事というしかない。灯火に誘われる虫のように己を焼かれる様堪能できます。2022/07/04
コットン
51
TANGOさんのお勧め本。赤江獏風味の恐怖編短編集でもう少し長い方が好みではありますが、赤江さんの得意な幻想的で情念のある京都ものの表題作「灯籠爛死行」がいい!2015/02/13
TANGO
28
図書館本。瀬戸内の島で…というあらすじにひかれて読んでみた。薄暗がりのなかで繰り広げられる、狂気やら、妖艶やらが閉じ込められた1冊。人間とは、生きていても死んでしまっても、かくも恐ろしいものである。中でも海贄考は、あとがきを読んで一層恐怖が増した。2014/02/09
ぐうぐう
18
「幻想編」「情念編」と続いた『赤江瀑短編傑作選』、その最終巻は「恐怖編」。しかし赤江瀑の描く恐怖は、ひと味もふた味も違う。一般的に恐怖を描こうとするとき、通常では起こりえない怪異に依存してしまうものだ。その非日常としての出来事が、不安を呼び、怖さを招く。ところが赤江瀑は、恐怖を描くにあたって、怪異を目的としない。本書に収録された13編の作品のそのどれもが、人間を描いている。(つづく)2016/07/19
藤月はな(灯れ松明の火)
12
表題作、「海贄考」のみ既読。仄暗き情念が秘された過去を暴く様を残酷、時には哀切に描ききっている。表題作の灯篭職人の美の追求によって引き起こされた因縁とその終着点は悲愴な美しさを感じさせます。2011/08/02