内容説明
(魔物や。魔物の庭や)京都・南禅寺町の外れにある郷田(ごうだ)邸は広大な敷地に庭木が植えられ『花屋敷』とよばれていた。ここで数十年前に無理心中があった。むせかえるほどの香気を放つ花木で埋めつくされた庭が、男と女を狂わせる(表題作)。夢幻が彷徨(さまよ)い、時空を超えてゆらぎ立つ怪・魔の世界。古都の寺社を舞台にした10作品を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
74
傑作。鏡は金偏に意と書く。意を写しだすのが鏡なれば、本書は心によって地獄や美が顕現する様を描いた作品ばかり。どれも地獄への道行は約束されているが、その道を彩る花々は何とも美しい。銀閣、髄心院、光悦寺、主な舞台となる京都や歌舞伎がその仄暗い美学をもって道を照らし出す様も読んでいて息を飲むよう。傑作選だけあり再読の作品も多いが「花夜叉殺し」「罪喰い」等は何度読んでもその心の有様に身が震えるような思いがする。初読では「恋牛賦」「正倉院の矢」が得も言われぬ読み心地だし。心が作り出す華やかな地獄、堪能できました。2021/01/06
きょちょ
22
現実からかけ離れた幻想世界でなく、現実をベースにして人間というものの幻想・妖しい世界を描く短篇10作。前に購入した小学館「罪喰い」と重複する作品が3つあるが、重複する作品以外では、「光悦殺し」以外全て好きだ。特に「千夜恋草」「恋牛賦」は実に官能的で、私は性愛小説は苦手だがこういった人間ではなく「モノ」への官能は好きだ(変態?笑)。はっきり言って、〇崎〇一郎をはるかに超える。でも、読友さんおすすめの作品はこの本にもなかった(泣)。恒川光太郎の作品がお好きな方にはお勧めしたいし、ぜひ感想も伺いたい。★★★★ 2017/09/19
テツ
20
耽美で淫靡な怪しい世界を描いた短編集。対象がヒトでもモノでも何かに執着するにつれて愛はどんどん深まりそれは狂気に満ちていく。昔からあまりにも官能的な物語、特に性愛が絡むそれは好きではないのだけれど、背徳感と隣り合わせでしか会得できない快楽もこの世界には存在するんだろうなと想像くらいは出来るようになった。そしてそうした濡れ堕ちた快楽の美しさもなんとなく。2017/09/22
藤月はな(灯れ松明の火)
19
表題作と「獣林寺妖変」、「罪喰い」、「正倉院の矢」は別の短編集で既読。魔都、京都を主に舞台にして人々の情念が芸術の魔性の狂おしさに翻弄される淑やかで背徳的で淫靡な世界観を味わいました。特に「獣林寺妖変」の登場人物、西江の歌舞伎に対して底深い憎悪を抱きながらもその魔性の美から離れられない事実を吐き出した言葉が印象深かったです。憎悪の対象であり、自分たちの限界を思い知らせ、破滅に導くことが分かっていながらも自らを芸術への贄にして昇華させようと足掻く人の儚い強靭さをまざまざと突き付けられました。2011/08/01
びっぐすとん
17
アンソロジーで読んだ『花曝れ首』が好みだったので、幻想集を読んでみた。うーん、もっと非日常的なお耽美かと思ったが、現代的で耽美というより官能的な感じ。求めていたものとは違ったが「千夜恋草」「万葉の甕」は良かった。どの作品も終わり方が似通っていてそこもやや物足りない。歌舞伎、源氏香、万葉集、正倉院などキーワード的にはツボだったんだけどな。ねっちょりした花街風の京都弁が白粉臭い空気を醸していて、裏表紙の著者の写真を見て、「この厳つい男性が書いたのか」と思ったら、益々幻想より官能だと思ってしまった、すいません。2019/11/13
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