内容説明
公爵家の血を引く若き天才浮世絵師・千秋遠文。その版元にして、情人でもある雨宮紫朗は、遠文に対してある疑いを抱いていた。遠文が無意識のうちに描いた絵が、いま巷を騒がせている華族連続殺人事件を予告するものとなったからだ。はたして遠文に事件とどんな関りがあるのだろうか? そんな時、遠文のもとに藤堂男爵家の令嬢・香耶子をモデルに絵を描いてほしいとの依頼が舞い込み…。※イラストは収録されていません。
感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
35
貫井徳郎氏の『鬼流殺生祭』や『妖奇切断譜』、栗本薫さんの六道ヶ辻シリーズを彷彿とさせる人の業を淫靡に描いた作品。曼珠沙華がまだ、咲いている時期に読み終わることができてほっとしています。逢魔が時の夕闇のような表紙の色と題名ともなった蜜柑の暗喩が明らかになった時の戦慄は忘れそうにもありません。こんなことが起きてしまったのは時代だったのだろうか、人の心だったのだろうか。残酷な部分をざわめかせながらも叶わぬ想いを抱えてきたあの人にとってあの絵は救いでもあり、餞ともなったのだろう。最後に彼等には幸せになって戴きたい2013/09/28
夏音
1
栗本薫『大導寺一族の滅亡』、渡瀬悠宇『櫻狩り』、そして花衣沙久羅『蜜柑』…この三作は、奇しくも同じ土壌から生まれた禍々しき徒花である。明治大正、絢爛のその裏で、奥深く隠された「人柱」の存在。そしてその生き血を吸って美しく咲き誇る「華」があった。誰も真実を知るものは無かった…埋めた者以外は。埋めた者は血肉で育った毒花を平然と食って暮らし、淫靡と狂気を仮面の下に忍ばせ、その仮面も腐る頃には後戻りのできない始末、腐った蜜柑は元には戻らぬ、ついには己の業により花と散る…その一瞬、正気に戻った彼らの何と哀しき事か。2019/07/26
punto
0
追記。2008/12/03