内容説明
震災から七年、復興は地域の衰退を加速しただけだった――。
希望を奪い、コミュニティを分断する公共投資。原発をめぐる空回りする議論。賛成と反対、敵と味方に引き裂かれた日本で、異なる価値観が交わる「潮目」をいかにして作り出すのか。福島県いわき市在住のアクティビストが辿り着いたのは、食、芸術、観光によって人と人をつなぐ、足下からの「地域づくり」だった。「課題先進地区・浜通り」から全国に問う、新たな復興のビジョン。図版多数収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばんだねいっぺい
31
何年か前に車で行ったいわき市の光景を思い出しながら読んだ。かまぼこクーラーは、可愛くて売ってほしいなと思ったし、「助成金錬金術師」とは、辛辣ながらも妥当な名称だなと笑った。2021/07/11
ころこ
25
本シリーズの装丁は、四六判にしては綴じの強度に重点が置かれていることに気付きました。さて、復興とは言うまでも無く、東日本大震災の被災からの復興です。正義が相対化されるとき、現場の人間に正義があるという主張は現在の日本社会では容易に反論できません。しかし、意味の固着化は、時と共に色褪せていく価値の維持に意外にも脆い。東京はフクシマが遠くにみえています。正義とは、誰の正義で、いつの正義であるのか。著者は、今の被災地がそうなっており、未来の被災地の行く末を案じています。当事者とは、いったい誰のことなのか、福島市2018/09/12
しゅん
15
力が湧く。福島で食やアートの実践と生活のための努力を重ねてきた人が震災以後の「復興」の曖昧さを撃ちながら綴る多様な体験と思考。事実の領域だけでなく、想像力の領域を鍛えることがどれだけ重要かがひしひしと伝わる。終わらない混乱と不安(原発事故の記述には、書くのがほんとにつらかっただろうなという印象を覚えた)の最中で届けられた言葉の勇敢さに頭が下がる。平易な文章で書かれていて、「入口」となることを意識しているのだろう。多くの人が入っていってほしいと思う。2019/01/22
みのくま
15
時の中央政権の都合により振り回され、裏切られ続けてきたいわき。首都圏のバッグヤードとして振舞っている内に、中央への依存から抜け出せなくなったいわき。本書ははっきりと復興は失敗だったと書く。原因は「マジメ」だったからだ。何十年後かは誰も住まない街で、景観を壊す防潮堤を「マジメ」だから造ってしまう。著者は、そうではなく美しい景観や美味しい料理、目を引くアートなど「フマジメ」な復興こそ大事だと説く。特に何も考えていない「フマジメ」な観光客が、美味しい料理を食べにいわきへ来る事が「結果的」に復興につながるからだ。2018/11/11
nbhd
13
ジワジワくる「地べた」の思想と実践のルポ。表現が正しいかわからないけど、僕の、もしくは誰かの、あるいは当事者自身の『当事者の気持ちを考える行為』が、当事者を突き放し、「被災地」から遠ざけ、分断を加速させているのではないか…そこへ「そもそも当事者って何だ」と、いわき市に住む小松さんが投げかける。地元の過去と現在を往来しながら、東浩紀さんの「誤配」「観光」といったキーワードをたよりに、最後には「原発事故は福島の障害である」といった思考にまで昇華させていく凄み。読むと、福島をドライブしてみたくなる。免許ないけど2020/11/27