内容説明
暴力を否定し,調和的な愛を強調するこの作品は,作者最後のかつ最高の傑作で雄大な構想,複雑で緻密な構成,人間精神の深刻な把握,また人類の苦悩に対する深い理解と愛情とをもつ.淫蕩なフョードルを父に持つ三人の兄弟を主人公に,悪夢のような一家の形成から破滅に至るまでの複雑多岐な内容を短時日の事件の中に描き出す.
目次
目 次
第十一篇 兄 イ ワ゛ ン
第 一 グルーシェンカの家で
第 二 病 め る 足
第 三 悪 魔 の 子
第 四 頌歌と秘密
第 五 あなたじゃない
第 六 スメルヂャコフとの最初の面談
第 七 二度目の訪問
第 八 三度目の、最後の面談
第 九 悪魔 イワ゛ンの悪夢
第 十 『それはあいつがいったんだ!』
第十二篇 誤れる裁判
第 一 運命の日
第 二 危険なる証人
第 三 医学鑑定 一フントの胡桃
第 四 幸運の微笑
第 五 不意の椿事
第 六 検事の論告 性格論
第 七 犯罪の径路
第 八 スメルヂャコフ論
第 九 全速力の心理解剖 疾走せるトロイカ 論告の終結
第 十 弁護士の弁論 両刃の刀
第十一 金はなかった 強奪行為もなかった
第十二 それに殺人もなかった
第十三 思想の姦通者
第十四 百姓どもが我を通した
第十三篇 エピローグ
第 一 ミーチャ救済の計画
第 二 嘘が真になった瞬間
第 三 イリューシャの埋葬 アリョーシャの別辞
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mukimi
111
2年かけて遂に読了。4巻が一番感激した。わかる、これがまごう事なき歴史的名作である理由が。イワンが幻覚と熱い討論を繰り広げるシーンは(真夜中に真っ暗な部屋で読んでいたので)脳細胞が興奮し時空を超えて19世紀ロシアまで開かれてしまうような異様な読書経験をした。人間の理知・情動が最高潮に達する裁判シーンでは鳥肌が立ち「ああすごい...」と声がもれた。最終章のアリョーシャの心の美しさには涙が溢れた。全ての登場人物が身近な友人のように感じられるようになった今、最初から読み返したいという無謀な思いに駆られている。2022/07/17
esop
69
人間には時として罪悪を愛する瞬間があるものです/じゃ、悪魔がお前を手伝ったんだ!/もし永遠の神様がなけりゃ、善行なんてものもない、それに第一、善行なんかいるわけがない2024/06/17
syaori
68
ゾシマ長老は一粒の種子を「民衆の胸に投げ」よと言いましたが、この物語はその種子だったように思います。作者は長老や検事の口から「現在の悲劇的な混沌」を告発しましたが、作者が描いたカラマーゾフの涙と苦悩、彼らが見出した歓喜は、そんな混沌の中で富や権利を追い、自分以外を信じずに「孤独に陥って」いる人々、「俺さえ無事ならかまわない」という世界に作者が蒔いた種子なのだと思います。そしてこの「真実なもの」の輝きは現在も「一点の光の如く、偉大なる暗示の如く」私たちを導いてくれているのだと思います。「カラマーゾフ万歳!」2020/07/08
tokko
20
長い。長いんだけれど癖になる。この、読んでいてもすぐに終わらないということは、本好きにはありがたい。この物語の骨子となる「父親を殺して恋を勝ち取る」のは「オイデュプス王」のテーゼが通奏低音となっているのか。さらに当時のキリスト教(社会通念)の存在意義、道徳、自我、法などが複雑に絡み合って葛藤を形成する。悲劇的だけれどそれほど陰鬱にならない、熱苦しくもありどこかカラッとした冷たさをもつ、そんな二律背反を見事に同居させた不思議な力を感じました。2015/04/11
sabosashi
16
革命と宗教という二項対立の間で展開される形而上の遣り取り。しかし子細に眺めれば細かい一節にも見逃しがたい内容が盛られていて、いかにも盛りだくさんという印象。したがって短くまとめようなんて企てが不遜であるともいえる。カラマーゾフ家での話し合い、応酬に他の者が関わってきて、その外部でもそれなりに展開をみせる。長い作品を読み終わってみると眼が眩んでしまいそうなのも当たり前か。2024/05/25