内容説明
晩年の太閤秀吉に、能の指南役として仕えた、役者・暮松新九郎が見た、秀吉の狂気とは? 太閤秀吉を能に没頭させよとの密命を帯び、天下人に接近、目論見どおり秀吉は能楽に熱中するようになるが、やがて秀吉に老いの影が忍び寄る。新九郎に密命を下したのは誰なのか、その真意とは? そして新九郎自身の数奇な出自とは? 家康・利家ら大名たちを巻き込み、華やかな舞いと権謀術数が繰り広げられる、桃山時代絵巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
156
能を政の戦略として使われ、人間の嫌な部分が見え隠れ。さらには秀吉の猜疑心の強さを伺えた。能もそうだし、茶道もそうだし純粋に芸能として楽しんでほしい。こんなふうに政に使ってほしくないね。秀吉には純粋に能を楽しんでほしかった。物語の緊張感を寧の登場することで、丸みを帯びて緊張を和らげてくれる。寧は、さすが秀吉の正妻だね。そして、新九郎の母の藤尾、ああ、やっぱり母なんだと息子を思ってくれていた事に安堵。やっとの思いで一緒になった新九郎と千穂は、幸せになってほしい。能の事がわからなくても、面白く読める。2020/07/24
アルピニア
62
暮松新九郎は、反りの合わない生母から「太閤さまのお心がお能に向くよう、つとめておじゃ」という命を受けて秀吉に近づき、能の指南役となる。秀吉は能に没頭し大名や役者を巻き込んでいく。秀吉をうまく利用しようとする金春安照の老獪さや秀吉の狂気を見せつけられ、「能を楽しむ」ことから離れていく日々に苦悩する新九郎。密命の謎や伏線が明らかになる終盤の展開に心がざわついた。秀吉を恐れながらも「あの心底楽しげな笑みを、今一度みたい」という心情が切ない。一炊の夢、「邯鄲男」が秀吉の生涯に重なる。秀吉の正妻「寧」の存在が救い。2018/10/11
ユメ
34
母から「太閤さまのお心がお能に向かせろ」と不可解な密命を受けた新九郎は、出仕しようと必死になるあまり、秀吉に「能を舞えば神になれまする」と口走ってしまう。めでたく秀吉の能の指南役となった新九郎だったが、このひと言は禁忌だった。強烈なコンプレックスの裏返しから全能の存在になることを欲する秀吉は、能に異様なまでの執着を見せ、自身と周囲の人生を狂わせていく。秀吉が老いていく姿や、彼の妄執に翻弄される人々の姿が痛々しい中、時折挿入される正妻・寧の視点が凪いでいるのも印象深い。終盤の怒涛の展開には息を呑んだ。2018/12/01
きょちょ
26
面白く読めた。 時は、朝鮮出兵の最中、利休はすでに切腹させられている。 秀吉に能を勧めようとしたした真の黒幕は誰か、というミステリー要素もある。 秀吉はこの作品でも相変わらず好きになれないが、正妻の寧がとても良い味を出している。 最後の、主人公の母親、藤尾の話は、驚きとともに感動を呼ぶ。 他の作品も読んでみたいと思わせる作家。 ★★★★2021/05/10
Y.yamabuki
8
主人公の能楽師、暮松新九郎を通して秀吉を描いた作品。後半部で新九郎が秀吉に能を教えることになった経緯が、明かされる。若きイケメン能楽師、能面をつけて或は直面で、綺羅びやかな能装束で舞う姿。映像化されたら誰が演じるのかしらと考えながら読んだ。美しい光景になるんでしょう。面白かった!300ページという長さもちょうど良かった。2018/06/19